終戦記念日といえば、世界どこでも8月15日と思い込んでいたりしないだろうか?
第二次大戦の欧州における終戦記念日は5月8日だ。1944年6月6日、ノルマンディーから上陸した連合軍の各部隊が、南・南東へ、北東へと進み、ドイツ軍と戦って押し戻し、フランスを、ベルギーを、オランダを次々と解放していったのだ。1年余りの戦いを経て、ドイツはとうとう降伏。欧州戦線が停戦に至った翌年5月8日は、欧州勝利の日(Victory in Europe Day)とされ、今も欧州各地で記憶に留める努力が続く。
映画化される「連合軍」はいつも、アメリカ軍と英国軍だけが主役。だが、ノルマンディー上陸作戦では、自由フランス軍や自由ベルギー軍(英国に脱出して組織されたレジスタン軍)も加わっていたわけだし、カナダ軍やオーストラリア軍など10カ国以上の軍が活躍したことを、日本人としては、恥ずかしながら、今まで、現実として認識することはなかった。
カナダ軍は、のちに、自由ポーランド軍(ドイツとソ連の両方から攻め込まれ、英国に脱出して組織された軍)とともに、ベルギーの北海沿いに進み、ブルージュ東部にあるアデゲム(Adegem)あたりに陣取って、アントワープ港への補給路となるスヘルデ河を死守しようとするドイツ軍と激しく戦って勝利した。
だから、「私達に平和と自由を戻すために、ここでスヘルデの激戦に挑んだカナダとポーランド解放軍への敬意と感謝をささげるために」、こつこつと集めた実際の軍服や遺品を集めて「カナダ・ポーランド第二次大戦博物館」を開業し運営しているのだ、と出迎えてくれたギルバートさんと娘のアレクサンドラさんが熱く語ってくれた。
心からの敬意と感謝が伝わる記念碑©Kurita
このひっそりとした田舎町には、だから、今も、カナダやポーランドに愛着や好意を持つ人々が多いのだという。そして、時として、ベルギーで戦った父親や祖父の足跡を訪ねてやってくるカナダ人がいて、75年ぶりに親族の遺品と感動の再会を果たすことがあるのだと、ギルバートさんは猛烈な思い入れを持って語ってくれた。父親の情熱を後世に伝えるために、アレクサンドラさんは、今、父の語りをビデオに撮り、SNSで拡散したりと忙しい。
お嬢さんのアレクサンドラさん(左)と父親のギルバートさん(右)コロナ禍のこの日、私達だけのために開けてくれたのだ ©Kurita
正直、今のままでは、ひと昔前の田舎っぽいミュージアムの域を出ない。気の利いたキュレーターと、歴史遺産保全の予算がつけば、素晴らしい可能性満載なのに…。戦争や負の遺産など、集団的記憶を、人々のために後世に残すことに、欧州は極めて熱心だ。だから、きっとその道のプロの目に留まる日が来るだろうと心から願う。