クラシック音楽好きの人は、ファビオ・ルイージという指揮者の名前にピンとくるかもしれない。かつてはニューヨークのメトロポリタン歌劇(MET Opera)の首席指揮者で、今はテキサス州でダラス交響楽団の音楽監督を務めている。長いコロナ禍でどこの交響楽団も演奏の機会を失い、演奏家たちは心が折れる日々を送って来た。それでもダラス交響楽団は昨年9月から、少数とはいえ観客を前に本拠地のモートン・マイヤーソン・シンフォニーセンターで小規模コンサートを行ってきた。
コロナ禍では、観客を絞り込んでコンサートを行った ©Dallas Symphony Orchestra / Sylvia Elzafon
これに対してニューヨークでは、今はまだコンサートができる状況にない。ワクチン接種で少しずつ経済再開に向かうニューヨークでも、MET Operaやブロードウェイの再開は9月の見通し。MET Operaは、2020年3月15日の公演を最後に、全員レイオフに。この間、コロナで楽団員の一人を失い、収入を絶たれて引退や転居を余儀なくされた楽団員も。あとは細々とオンラインで演奏し続けるしか道はなかった。
コロナ禍で野外で⼩規模のポップアップ・パフォーマンスをするダラス交響楽団員(2020年12月)©Dallas Symphony Orchestra / Sylvia Elzafon
そこでルイージ氏が思いついたのが、MET Opera管弦楽団の50人を招いてのチャリティ・合同コンサートだ。4月30日と5月1日、ダラス交響楽団の50人と合わせ総勢100人の合同オーケストラが、マイヤーソン・シンフォニーセンターで、ルイージ氏の指揮によりマーラーの交響曲第1番≪巨人≫を演奏した。
コロナ感染対策のため、同シンフォニーセンターは、演奏者が間隔をあけられるようにステージを拡大し、通常は1800席のところを観客数も400人に制限。それでも観客を前にした本格的な演奏で、オーケストラも観客もコロナ禍の暗いトンネルを抜けた感覚を味わったのではないだろうか。このコンサートの収益と寄付は、コロナ禍を耐え続けてきた両楽団員の支援基金となる。
ちなみにファビオ・ルイージ氏は、2022年9月からNHK交響楽団の指揮者に就任することが決まっているので、日本の皆さんも来年はルイージ氏の指揮を間近で堪能できる。
その場に居合わすことのできなかった私たちでも、米国の5月11日(日本時間だと5月11日夜から5月12日の昼まで)に、このコンサートを無料オンデマンドでバーチャル視聴できる。詳しくは、 このリンク(https://www.dallassymphony.org/dso-members-of-the-met-orchestra/)から。
追記(2021年5月30日)以下のサイトで、コンサートを無料視聴できるようになった。
トップ写真:指揮者のファビオ・ルイージ氏(Fabio Luisi 、2019年)©Dallas Symphony Orchestra / Sylvia Elzafon