5月7日、中道・無所属、議員経験なしで大統領選挙に初出馬したエマニュエル・マクロン氏が新大統領に選出された。弱冠39歳、ナポレオン以来これまでになかった若い大統領である。
経済畑出身だが、20世紀を代表する哲学者(1913-2005)のアシスタントをしていたこともありと、幅広い教養を持つことを強みとする。
マクロン氏の勝利は、トランプ大統領当選、Brexitが象徴する孤立主義以外の世界観も可能であること、また、これまでの右派対左派といった政治の終わりを意味していると言っては、あまりにも楽観主義だろうか?
テレビ討論で失敗
極右政党・国民戦線(FN)のマリーン・ル・ペン氏は、予選直後は約40%獲得を予想されていたが、2時間半続いた5月3日のテレビ討論で失態を演じた。
ル・ペン氏は、クリントン候補者と討論した時のトランプ大統領に似た態度で、自分のプログラムについての説明よりも、マクロン氏を攻撃する作戦をとった。
しかし、絶えずメモを探す落ち着きのない様子は、すべての数字を暗記し自分のデータとして使いこなすマクロン氏との差を強調するばかり。また、産業・財政分野においては明らかに理解不足を感じさせる発言をし、マクロン氏に「あなたにはプログラム(政策提案)がないでしょう」とまで言われた。Bfmtvの統計では、討論後、マクロン氏への投票率は3%上昇した 。
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多かった棄権者と白紙投票者
ここ、数ヶ月は、友人の家に食事に行くと、必ず選挙の話題になり、議論が白熱した。
「どうする、選挙?」
「白紙に決まってるよ、銀行家とファシストの間でどっちを選べっていうの?」
「でも、白紙投票したらル・ペンが優勢になるだけ。FNが政権とったら、棄権者と白紙投票した人たちの責任よ!」
フランスでは、政治的志向が違う人々と友達になるのはなかなか難しい。ところが、今回は、左派同士でも怒鳴り合いとなり、気まずく別れるというトホホな気分を味わった人々は多いはずだ。
決選は、マクロン氏とル・ペン氏の二つのプログラムのどちらかを選択するというよりも、「民主主義かファシズムか」の二者択一と捉えられ、「反ル・ペン」という意思からマクロン氏に「仕方なく」投票した人々は多かった。
それというのも、右派の人々にとって、社会党政権下で経財相だったマクロン氏に投票することは、オランド政権の続行を意味しており、また、左派の人々にとっては、エリートコースを歩んだ元ロチルド(ロスチャイルド)銀行マンという過去をもつマクロン氏に投票することは「手を汚すこと」だったからだ。
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期待されるマクロン夫人の役割
ところでこの「エリートコースを歩んだ秀才」という冷たいイメージを覆す存在がブリジット・マクロン夫人。
25歳年上の彼女は、元は高校の文学教師。マクロン氏が15歳だった時の演劇部の顧問だった。いつも手をつないでいる、仲睦まじい二人のロマンスは、いくら恋愛に自由というイメージが強いフランスでも珍しいこと、マクロン氏のエリート・イメージを幾分和らげた。
現在は、夫人は、マクロン氏の演説準備やプランニングを手伝っている。選挙運動に出向いた地方の隅々で、庶民の声に耳を傾ける時間を厭わない人として人気が上昇、新大統領には欠かせない役割を演じると考えられている。
棄権者と白紙投票者は合わせて1600万人
マクロン氏は、昨晩、当選祝いをしたルーヴル美術館広場で「私の任期後には、極右政党に投票する人々がいなくなっているように」と演説したが、どうだろう。
Ipsos 統計によれば、棄権者は25.4%と、大統領選挙の決選では1969年(6.42%)以来の多さとのことである。また、白紙投票をしたのは11.47%、407万人 。こちらも、通常は4%から6%であることを考えると、無視できない数だ。総勢1600万人にのぼる棄権者と白紙投票者は何を言わんとしているのだろうか。
危うくFNの政権獲得を免れたフランスだが、油断はならない。マクロン氏に投票したのは、地価も生活費も高いパリ居住者の90%、そして職業別では管理職の83%。それに対して、労働者の63%がル・ペン氏に投票したことを考えると、フランスのエリート層と庶民の間の溝は深い。
<Yahoo個人ブログ掲載5月9日記事に加筆・修正>
トップ写真:(c) Copyleft / Foto-AG Gymnasium Melle
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