青空にすっくと伸びる桜の木々。今年も可憐な花をつけ、人々を楽しませている。ここはドイツ北部のハノーファー市にある「広島祈念の杜」。広島の原爆で亡くなった11万人を追悼して、 110本の桜の木が植えられている。 それぞれの桜の木が1000人の命を象徴している。
ハノーファー市は、平和をテーマとした青少年交流をきっかけとして、1983年に広島市と姉妹都市提携を結んだ。地元の平和団体が寄付を募り、1986年から桜の木を植え始めた。1987年からは、市も予算をつけ、110本植えることを決めた。一部は広島市からも寄贈され、同年12月に50本、1989年11月に110本が揃った。
平和を願って植えられた110本の桜の木 市民の憩いの場ともなっている ©Riho Taguchi
桜の木の横で微笑む観音像は、広島の爆心地から200メートルのところにあった石に刻まれたものだ。焦げ後の残る木材を使った「燃えた小屋」は、原爆を投下された広島の苦しみを象徴している。素材は、復活祭の焚火からの焼け残りである。
ドイツの子どもたちがつくった手のオブジェは、 助けを求めるとともに、戦争に反対する声を表している。平和団体の「広島連合ハノーファー」は毎年8月5日の夜、ここで、被ばく者追悼の催しを開いている。もともとハノーファー市は平和運動が盛んで、現在でも市民による平和団体が10以上ある。
毎春ここで開かれていた桜祭りは今年、コロナ禍のため中止となった。代わりに「オーディオウォーク」(ドイツ語のみ)と称し、スマホを通して、様々なテーマについて聴くことができる企画が実現した。花見や武道、原爆、この杜の成り立ちなど10のテーマについて市民が語り、私も広島出身の米澤鐡志さんの被ばく体験を紹介した(オーディオウォーク Station 2)。
春うらら、 市民が散策しながらスマホで日本について知ることができる。 桜を愛でつつ、平和について考える機会にしたい。
<トップ写真:子どもたちが作った手のオブジェ、右奥には広島からの観音像の石碑が見える ©Riho Taguchi>