ワクチンの猛烈接種が進む欧州では、接種率が人口の3割を超え、感染状況がはっきり改善し始めている。そこで、この夏に向け、少しでも早く以前のような生活を取り戻そうと、いわゆる「コロナ・パスポート」が本格化しようとしている。
トップ写真は、デンマーク政府がいち早く実用化したMyHealthというアプリ。まず本人認証画面へ、その後、健康保健省のホーム画面から「コロナパス」を選ぶと、PCRテスト、ワクチン接種、抗体有無のインデックスがあり、72時間以内のPCR検査の証明、ワクチン接種状況、抗体検査結果を表示する。ワクチンはどのメーカーのワクチンを、いつ、何度接種したかが表示される。パソコンから健康保健省のホームページに行けば印刷も可能だ。
デンマークの知人によれば、映画館や美術館はもちろん、スポーツジムや遊園地に行ったり、大学構内に入ったり、レストラン店内での飲食にもこれが活用されているという。デンマーク語の他、英語、仏語にも対応。デンマークは、血栓症との関係が疑われるワクチン2種(アストラゼネカとジョンソン&ジョンソン)の接種を停止したことから、ワクチン接種率は欧州内では低い方だ。だが、その分、PCRテストの件数は高く、毎日、国民の8%、50万人が受けているという。週に2~3回テストを受けることが負担にならないというほど、近所で予約なしに、ただで素早く受けられるのだという。行動制限のない自由な生活がそれほど渇望されているのだ。
EU規模で3月以来延々と議論されていたコロナ・パスポート「EU Digital COVID certificate(=EUDCC)」も、ようやく5月21日、欧州議会と欧州連合理事会で合意され、7月1日実用化を目指して急ピッチで進むことになった。
EU加盟国間で共通なもので、これがあれば、加盟国間の旅行がスムーズになるほか、各国で飲食店やイベント、劇場や美術館などへの入場がスムーズできるようになる。スイス、ノルウェーなど、シェンゲン圏の国もこれに準拠するようだが、英国は方針を明らかにしていない。
ワクチン接種はEU加盟国では無償だが、PCR検査や抗体検査にお金がかかったり、身近で簡単に受けることができなかったりすれば、「差別」につながる。また、データやプライバシー保護の観点も懸念されてきた。今のところ、このEU デジタルCOVID証明に有効なワクチンは、欧州医薬品庁が承認したバイオンテック=ファイザー、モデルナ、アストラゼネカ、ジョンソン&ジョンソンの4つのみ。入国や施設への入場条件に、1回接種でもOKとするかどうかは、各国の裁量による。
経済や文化の復興を加速させることを目的とするため、暫定的に1年間の施行が予定されている。
日本では想像できないかもしれないが、欧州では、半年以上も飲食店が強制休業となっていた国が多く、ようやく屋外のテラス席のみ営業可というようなところが多い。今年は春夏になっても天候が不安定な北欧州では、ここのところ曇天が続き、飲食店は開店休業状態で悲鳴をあげている。感染対策は昨年の経験からバッチリなので、室内飲食が可能になる日を待ちわびている。
PCR陰性証明を持った若者を招いてのミュージック・フェスなどの大型イベント「実験」が各国各地で行われている。昨年はキャンセルされた欧州最大のポピュラー音楽イベント「ユーロビジョン」は5月22日、ロッテルダムで3500人の観衆を入れて縮小規模ながら開催された。出演者は当日まで数回のPCR検査を繰り返し、宝くじのような入場券を手にした観衆もPCR陰性証明が必須。いつもは欧州中から集まるのに、今年はオランダ人が85%を占めたという。
欧州では、7月1日以降、地中海やスイスの山にバカンスに出たり、屋外フェスで踊りまくって大騒ぎしたり、いつまでも明るいテラスで夕日を浴びながらドリンクを片手に友たちと語らったりできるようになるのだろうか。コロナ・パスポートを手に。
水際対策強化とやらで、日本への入国には、医師の直筆署名のある日本語か英語のPCR検査証明が必要になったと聞いて唖然とした。日本語か英語って、それ以外の言語は読めませんというのか。そもそも欧州のPCR検査に医師は介在しないし、本物である証が医師の「署名」とはなんたるアナログ…。日本にマルチランゲージのデジタル・コロナパスが通用するようになる日はいつだろう。