いよいよ日本でも緊急事態宣言が出され自粛が強化される。だが、まだ日本の人々には、封鎖生活のリアルに実感がないかもしれない。欧州ではイタリアに並ぶ被害を出しているスペインでは、かなり厳格な外出禁止の日々が続く。
さぞひっ迫した描写が綴られるかと思いきや、ライター、写真家、コーディネータとして多方面で活動する河合妙子さんのレポートはちょっと雰囲気が違った。閉ざされた生活は、工夫や創造を生み、非日常的な時間の過ごし方には個性が出る。
<トップ写真:スペイン語のI stay homeのバナー By Madridiario – https://www.madridiario.es/celebridades-pais-unen-iniciativa-yomequedoencasa, Public Domain>
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スペインでは日本よりも一ヶ月程早く、新型コロナウィルスによる国家非常事態宣言が出された。本稿では、住む街の心象、自宅軟禁状態での仕事と楽しみをお伝えしたい。
国家非常事態宣言の背景~国民的デモの成功が仇(あだ)?
「婦人の日、おめでとう!」 スペイン全土でワッツアップ(WhatsApp-通信アプリ)のメッセージが飛び交った3月8日、無数の婦女・人権団体は全国規模のデモを決行し、大成功を収めた。ところがデモを境に、毎日5千人に迫る勢いで感染者が増え、5日後の3月13日、政府は、国家非常事態宣言を出すことになる。
ウィルス感染拡大の引き金は、このデモだったと疑われている。4月6日現在、感染者135,000名、死亡者13,055名、入院者数60,000 (ICU6,931) 名、退院者40,000名。感染した医療関係者は19,400名。そのうち10%が入院、20% が退院。 (エル・パイス紙の記事)
テレビで見、新聞で読み、ラジオで聞く限り、スペインは大変だが、私が住んでいる街、いや、正確には私の周辺では感染者すらいない。テレビ映像のような現場をこの目で見ていない。「全て偽装工作だ」という友人すらいる。
ふと、父母を思い出した。浅草の近くで生まれ育ち、東京大空襲ではB-29の機銃掃射の下を逃げ回った父と、山梨県の山奥で生まれ育ち、戦時中、遠くの空を行く戦闘機を見ても、「日本のかな、アメリカさんのかな?」くらいにしか思わなかったと言う母を。
そうそう、私は、マスクを買っていない。買う必要がないと思っていたのだ。自宅軟禁1週目に馴染みのパン屋に行ったら、元気なおかみさんが、マスクをしている。かつて日本人のマスク姿を怖がった国民のマスク姿ほど、哀しいものもない。
「なんて姿」と私が言うと、
「ほんとよね」と彼女は泣きそうな顔をした。
相手に不快感を与えても悪いと思い、マスクは自分で作ることにした。飛行機でもらうアイマスクを使う。タオル地のハンカチで眼帯を挟むように二つ折りにし、四隅を縫うだけだが、サイズもゴムもちょうど良い。
遠隔授業では、グーグル・ドキュメントが使いやすい
国家非常事態宣言の翌朝、勤務先の大学から、再開の通知が出るまでオンライン授業になると通達された。筆者は大学で日本語学科の授業を受け持っている。
初級と中級のオンライン用教材作りが急務となった。添削用の課題をメールで送り、質疑応答はWhatsAppを使うことで乗り切った。だが生徒は合計で20名。大量の添削は、なんとかしないと自分の生活が成り立たなくなると危惧。
企業やグループの遠隔会議用には、便利なソフトもいろいろある。しかし、訓練せずに使いこなすのは難しい。カメラのないパソコンを使っている生徒もいる。また、ZOOMなど一部のソフトの無料版は40分という時間制限もある。そのため、ソフト選びは難航した。
結局3週目に、グーグル・ドキュメントを使用することで決着がついた。全員が同じマイクロソフト・ワードに書き込みができ、編集ツールもあるので、チャットとは比べ物にならないほど便利だ。教室での授業より、むしろきめ細かく指導できる。これなら作文力の強化にも役立ちそうだ。
パソコン画面に開かれたワードに、他人が動かすカーソルが文字になっていく、SF的で不思議な世界。クラウドに原稿が自動保存されるから、携帯からも取り出せる。翻訳のネイティブチェックや、打ち合わせにも良さそうである。
都市伝説か? 真犯人をめぐる怪ニュース
新型コロナ問題による自宅軟禁状態は、普段できないことをする良いチャンスだ。私は、都市伝説系のYouTubeにハマっている。所詮、事実は誰にもわからない。たくさんある中から、「それもアリだな」と思える番組をつなぎ、自分なりに推理するのが面白い。
国家非常事態宣言2週目、河添恵子24-1『新型コロナウイルスは生物兵器の可能性』とその続編24-2は見応えがあった。世界中の政府が講演を依頼するという、毒性学や生物・化学兵器が専門の化学者・杜祖健(アンソニー・トゥー)氏がゲストで、彼の裏話が具体的なのだ。彼の話を聞いて、病院関係者も警察も、なぜ、オウム真理教事件を思い出させる防御服を着ているのか、腑に落ちた。
生物兵器案に興味を持ったので、ググってみると、「この男が、史上最多の死者数をもたらすウィルスの開発者」というスペイン語のヘッドラインと、中国人風の男の写真を載せたニュースを見つけた。2014年の記事 (日本語情報としてはこちら)で、英ガーディアン紙からの転載だ。キャプションには開発者名がある。KAWAOKA? えっ、中国人ではない!?
スペイン語YouTubeポスト
彼は、河岡義裕氏。インフルエンザやエボラウィスルのワクチンを作った、世界に貢献しているすごい学者だ。ウィキペディアには、米国の作家ドン・ブラウンの『インフィエルノ』のモデルだとも書いてある。河岡氏は以前より、ウィルスの危険性や医療崩壊について、警鐘を鳴らし続けていた。なぜ彼への疑惑が海外で起きたのだろう?
ところがつい今月初めの4月1日、スペイン語のニュースサイトに、「河岡氏が開発した根拠はない」という記事が出た。「新型コロナウィルスは自然発生による。研究所で作られたものではない」からだという。やれやれと思いつつも、なぜ河岡氏をめぐる一連の海外怪ニュースが出たのか、疑問が残る。
新型コロナ関連といえば終末論。これも一度ほじくれば、芋づる式に出てくる都市伝説分野の定番である。スペインでは、この話題が案外深くて論理性に富み、神父からも意外な話を聞くことさえある。
噂のあれこれを簡潔にまとめあげ、漫画『ワンピース』との関連までしっかり伝える、革命家HIROのひろスタ氏のYouTubeを見つけた。愉快な発見だった。都市伝説分野に多いAIのナレーションではなく、本人が顔を出し、他のサイトが話さないところに、しっかり視聴者を着地させてくれる構成に好感が持てた。以下に、特に面白かった2本を挙げておく。
【都市伝説】世界の終わり(終末)が近い?ヨハネの黙示録と666
1年前の番組だが、予言や警告に入る名作かも。
スペインにはワンピース・ファンが多いので、スペイン語字幕があればウケるかもしれない。
<寄稿者プロフィール>
河合妙子/Taeko Kawai
東京での写真通信社・航空会社OL、台湾・フランス暮らしを経て、2002年よりスペイン在住。ライター、フォトグラファーとして日本の雑誌で連載等、記事を発表。2010年以降は個人事業Kimi Planetでビジネス・旅行コーディネート開始。2020東京オリンピック事前合宿コーディネーター。スペインの国立大学講師。清泉女子大キリスト教文化学科(哲学専攻)、台湾國立政治大学新聞研究所(ジャーナリズム修士課程)修了。著書『パリのおさんぽ』(扶桑社)、共著『ロンドンのおさんぽ』、『世界で広がる脱原発 』(宝島社新書)。ホームページはこちら。