*国際ジャーナリスト協会(IFJ)東京事務所 事務局長 奥田良胤氏が、戦後81年に寄せて、若者向けに用意された原稿をSpeakUpに転載させていただきます。
私はかつて国際ジャーナリスト連盟(本部:ベルギー。略称IFJ、世界148か国60万人)の役員をやっていました。
第一線を引いた後、今から20年ほど前に、主として外国で取材をする日本のフリーランスジャーナリストのために、「IFJ・Japanフリーランスユニオン」を設立しました。というのも、フリーランスは第三者が「ジャーナリストであることを証明する手段」がありません。国内ならメディア企業の名刺や、自分で作成した名刺でも、けっこう通用するのですが、外国で取材するには記者証が必要です。
とくに、紛争地では記者証がないと取材できません。たとえば、ロシアが侵攻したウクライナでは、軍が警備する検問所を通してもらうためには記者証が必要です。IFJ・Japanフリーランスユニオンに加盟してもらい、世界的に通用するIFJの記者証を発行してきました。そして、メンバーの方々には世界のメディア関連のニュースを「IFJ短信」として、月2回発行してきました。メンバーは現在国内外合わせて約50人です。
前置きが長くなりましたが、この1年に「IFJ短信」(以下「短信」と書く)で伝えてきた情報に基づき、メディアの今を読み解き、そこから「平和」「戦争をしないために」について考えていただけたらと思います。
皆さんは、日本の報道の自由度は世界で何番目ぐらいだと思われますか。
「短信26年5月20日号」では、国境なき記者団(本部:パリ、略称RSF)の調査結果を記しています。RSFは、報道の自由を守る活動をしている非政府団体で、活動資金は寄付金のほか、ヨーロッパ諸国やアメリカ、カナダなどの政府からも拠出されています。RSFは活動資金を出している国の政府に対しても、報道の自由に反する事案があれば、厳しく批判します。アメリカのトランプ政権は別にして、資金を出している国の政府は反論する場合もありますが、多くは批判を受け入れます。日本社会の「世話になっている人には」との感覚では理解しがたいかもしれません。
「短信26年7月5日号」によれば、RSFは、フランスの右派チャンネルC News の放送内容が、意見の多様性などを定めた放送ルールに反していると、調査データをもとに告発し、当局がこれを認めてC Newsに是正を求める、こんな活動もしています。
日本の報道の自由度が低いのは、情報源を守るシステムや編集権の独立が確立されていないことの他に、大手メディアのジャーナリストの自己規制(自粛)が理由とされています。2010年の民主党の鳩山政権の時には自由度は11位でしたが、その後右寄りの安倍政権が長く続き、自由度は著しく低下して現在に至っています。
「短信26年5月20日号」では、世界的に拡大しているスパイウェアなどでのジャーナリストの監視に関するIFJ本部の調査結果を報じています。スパイウェアというのは、ジャーナリスト本人が気づかないうちに、メッセージや通信内容、写真や位置情報などを把握するもので、「ペガサス」「プレデター」「グラファイト」などが商用として販売されています。
日本の高市政権は、国家安全保障局を発足させました。国の安全を守るために、あらゆる情報を掌握しようというのだから、ジャーナリストに関していえば、デジタル監視が密かに行われることになるでしょう。スパイウェアを使ってマークしたジャーナリストを監視することもありえます。
スパイウェアを使わなくとも、携帯電話やデジタル機器の使用状況をチェックして、その人が誰と連絡をとったかなどを把握できます。たとえば、政府の機密を記事にしたジャーナリストがいれば、彼・彼女が誰と連絡していたかがわかれば、内部告発した人を、つまり情報源を特定できるわけです。これらは、外国では情報局の行動として公然の秘密になっていますから、高市政権がやらない保障はありません。
違法監視は、スパイされたジャーナリストが告発しなければ明るみに出ませんが、雇用ジャーナリストが大半の日本では、違法行為だと告発するには職を賭しての勇気が必要です。
次にアメリカ。トランプさんのメディアへの干渉で自由度は64位。唯我独尊のトランプさんが行ったメディア弾圧の具体例をいくつか取り上げてみましょう。あまりに多すぎるので、ほんの一部です。
「短信」による、その一。国防総省が機密情報を取材しないと誓約しなかった記者に取材証の返還を求め、締め出しました。誓約しなかったニューヨークタイムズ紙は、言論の自由を保障した憲法に違反するとして提訴。
その二。ホワイトハウスが公式ウェブサイトで、トランプ政権を批判した記事を発信したメディアとジャーナリストを「偏向」「虚偽」のレッテルを貼って、名指しで批判するページをつくりました。
次に「短信25年10月5日号」による、トランプさんに攻撃を受けたメディアの経営者側の対応を二つ。
CBSは、2024年の大統領選挙当時のニュース番組「60ミニッツ」で、民主党の大統領候補だったハリス副大統領(当時)へのインタビューを放送しましたが、トランプさんは、民主党が有利になるよう編集したと批判して200億ドルの損害賠償を求めて提訴しました。これに対してCBSはまったく根拠がないと一蹴しましたが、親会社のパラマウントは1600万ドル払うことで和解しました。トランプさんは大統領の立場を利用して、日本円換算で約25億6000万円を手に入れました。親会社のパラマウントが和解した理由は、パラマウントは当時、別の映画会社との経営統合を進めており、政府の承認が必要だったからと言われています。
ABCは、著名なコメディアンが深夜のトーク番組で、トランプさんを批判する発言をしたために、この番組を無期限で休止することにしました。ところが、言論の自由の危機だと批判する声が高まり、著名な俳優ら400人以上のアーティストが抗議声明を出したため、ABCは放送を再開。ABCを所有するのはウォルトディズニー社で、出演者の声には逆らえなかったのです。
アメリカの外国人ジャーナリスト排斥は続いており、IFJ本部からアメリカ在住のジャーナリストに送った記者証の多くが税関でストップされ、簡単には本人にはわたらない事態となっており、日本人記者も例外ではありません。
戦争が起きると、取材するジャーナリストは、きわめて危険な状況におかれます。「短信」が伝える具体例として、パレスチナのガザ地区を取り上げてみます。
イスラエル軍がガザ南部の病院を空爆しました。病院にはイスラエル軍の攻撃でケガをした多数の人々が収容されており、多くのジャーナリストが取材していました。この空爆でロイター通信社やカタールのメディアネットワーク・アルジャジーラなどの5人のジャーナリストが死亡しました。
ジャーナリストたちは、病院取材の場合は、病院近くにテントを張って拠点とします。そのテントがイスラエル軍に空爆され、アルジャジーラの別の5人も死亡しています。
ジャーナリストたちは、戦場取材の場合、取材車と身体に大きくPRESSと書いた標識をつけています。PRESSは民間人、意図的に狙えば戦争犯罪(追記:ジュネーブ諸条約の追加議定書(第1追加議定書)第79条および国際人道法(武力紛争法)、国連安全保障理事会による決議1738号など)です。しかし、イスラエル軍は意図的に空爆やドローンでジャーナリストを狙って攻撃していています。
アメリカとイスラエルは2026年2月28日、突然イランを空爆し、イランも反撃して周辺諸国のアメリカ軍基地を攻撃し、パレスチナのガザ地区の戦争は中東戦争に拡大しました。ホルムズ海峡の封鎖で石油が入ってこなくなり、日本も大きな影響を受けています。
戦争が拡大すると、周辺諸国で報道規制が強化され、ミサイル迎撃の様子や、着弾地点の撮影、撮影したものを送信することなどが禁止されています。
「短信26年4月5日号」によれば、関係国が都合のよい情報だけを発表するので、現場取材の出来ない報道はプロパガンダ合戦に巻き込まれているようです。
当然のことですが、ジャーナリストを狙った攻撃はロシアが侵攻したウクライナでも行われています。(追記:IFJ傘下のウクライナのジャーナリスト組合は、現在は取材時にPRESSと表示しないことを勧めています)。
メディアの取材環境は近年世界的に厳しくなっていますが、「短信26年7月20日号」によれば、ヨーロッパのルクセンブルクで、注目すべき新メディア法が2026年7月に成立しました。あらたな法律は、公共機関が持つ情報にジャーナリストがアクセスすることを権利として認めています。ジャーナリストが気づきさえすれば、内部告発を待たずに、情報を請求すればよいことになります。安倍政権の土地払い下げに疑問を呈し自殺した官僚の遺族が求めた文書開示のように、黒塗りが大部分の文書などは決してでてこないのです。
最後に、メディアが伝える情報には、「事実」と「真実」、それに「誤報」があることをお伝えしたいと思います。
「誤報」は論外として、「事実」というのは、たとえばトランプさんの記者会見での話をそのまま発信すること。「真実」というのは、トランプさんの話の内容が、プロパガンダではないか、扇動するためではないか、駆け引きではないかなどを調査し、本当の意図を伝えることです。
今日のメディアの発信は「事実」だけというのが圧倒的に多いのが現実です。特に日本では記者会見での内容をそのまま伝える政府広報となっている傾向がぬぐえません。
権力者の裏の意図をすっぱ抜けば、独裁政権や戦争をしている国などでは、拘束され、有罪の判決を受けます。
「事実」だけの発信であれば、発信量が多い政府や財界のニュースが必然的に多くなります。こうした状況下では、少数意見をどう伝えるかが、独自の調査でしっかり本当の意図を伝えられるかが、メディアの大きな責任であると言えるでしょう。
戦争をしない国、平和な社会を維持するためにはどうすればよいか、答えは一つではないと思います。個人の思想、立場、年齢などで違いが出てきます。 世界で戦争が拡大し、非武装中立など非現実的だと一蹴される時代に、ここまでのメディアの世界の現状を参考資料の一つとして、改めて考えてみてほしいと願っています。
2026年8月、戦後81年に寄せて。
フリーランスジャーナリスト
奥 田 良 胤


この寄稿は、IFJ傘下のジャパン・フリーランス・ユニオン創設者でもある奥田良胤氏が、9月19日にこの「岩見三内サロン」で開催される大学生を対象とした里山トーク「戦後 81 年 いま 改めて平和を考える」のために準備された資料を元に、ご本人の了解を得て、加筆調整したものです。里山トークは、石塚武和氏が郷里秋田市河辺岩見のご自宅を「岩見三内サロン」として解放し開催されているイベントです。

