[intro-Radioactivewaste]
現在、ビュールには、恐ろしい高レベル放射性廃棄物が捨てられているわけでも、処分場の建設がすでに始まっているわけでもない。この約30㎢の敷地の地下と地上には、基礎的な地質調査や実用化実験をする地下研究所と、2009年にオープンした技術展示センター、および事務機能の建物などがある。ネットで申し込めば、日時を確認した個人宛の丁寧なメールが届き、広報担当の案内付きで見学できる。さらに希望すれば、450mほど地下にある実験研究現場を見ることもできる。18才以上なら、国籍を問わず、見学は土日も可能だ。
百聞は一見にしかず。自分の目で見てほしい。現場に行かれなくとも、疑似体験できる映像さえも公開されているからだ。
疑似体験ビデオ
https://www.andra.fr/visite_virtuelle_laboratoire/
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フランスが挑む深地層処理場を体験する
最寄りの高速出口からも車で約2時間。何の変哲もない農村地帯に、突然、風車が見え始めると、周りには不似合いな殺風景な建物がいくつか建っている。ここがビュールだ。
少し奥に進むと、ここに処分される予定の「高・中レベル長寿命廃棄物 」が、実際にどのような形状で、どのようにしてここに運ばれてくるのか、また、地下にはどのような構造の処分場が作られ、どのように移動され、埋蔵されるのかを、縮小モデルで見ることができる。高レベル放射性廃棄物はガラスと混ぜて溶融し、ステンレスのキャニスターに注入して固化される。高レベル放射線廃棄物の実物大模型は、本物なら、近づいただけで即死するほどの放射能を放つから、模型と知っていても恐ろしく感じられた。
奥にある4700㎡の技術展示センターには、実物大の輸送装置や産業ロボットが展示され、廃棄物がビュールに到着してから、地下廃棄場まで輸送され、処分場に入れられるまでの過程を目の前で見ることができる。
さらに、実際の地下研究所の見学では、ビデオを視聴した後、ランプ付ヘルメット、アイカバー、安全靴、緊急時の酸素マスクやGPSなどを装着し、作業員とまったく同じルールを遵守しながら、深さ490mにくり抜かれた全長約1200mの研究坑道までエレベータで降下する。地上につながる立坑は、物資や作業員の輸送用(直系5m)と、換気・緊急避難時用(直系4m)の二本しかない。
1億6000年前に形成された粘土岩層の空間はからからに乾燥している。粘土岩は思いのほか脆く、拾い上げた塊を壁に投げつけると簡単に砕け、その破片にはアンモナイトの化石があった。粘土岩は、水を透過せず(1万年で数センチ)、化学成分を遮断する性質が高いことから、放射性核種の封鎖に適するという。掘ればすぐ地下水が溢れ、どこにでも火山や断層のある日本の地層とは異なる。ここでは、ホール型廃棄場(長寿命・中レベル放射線廃棄物用)と水平に掘られる筒状の廃棄場(高レベル放射線廃棄物用)が実験用に作られ、3000基以上ものセンサーが設置されて、地盤の動き、水の浸潤度、熱や化学物質の伝達などが実験・計測されている。100年後には、総面積15㎢に達するとされる地下処分場は、宇宙空間のスペースシャトルか、海底探索基地をイメージさせた。
フランスが見せるホームページ、ニュースレターやDVDで学ぶ
ネット上で見ることのできる情報や映像だけでも、2006年の法律に沿って、一般市民が十分に知り、理解できるようにと徹底している。特に、高レベル放射性廃棄物の処分については、地球規模への影響があることを配慮し、情報公開には、仏語以外にも、英語・スペイン語で、さまざまな情報が開示されている。日本と同様に、外国語に弱いと揶揄されるフランスとしては、格別の挑戦だ。
<ネット上の映像>
https://dai.ly/xk4gse
一般市民向けのパンフレットやニュースレターはもちろん、子供向けの資料、研究者や政治家に向けた技術調査・研究報告、現地を訪れられない人のための地下研究所見学DVD、英文印刷物なども豊富に用意され、誰でも入手できるようになっている。
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他国の知見から学ぶ‐未来への責任
もっとも危険な核のゴミは、人類から十万年も隔離されねばならない。十万年といえば、現代人の起源ホモ・サピエンスがアフリカに現れてからの歳月に匹敵する。我々は、それほどの安全を保障する術を、今、持たない。
日本では、正解のわからない命題は、蓋をして、先送りされがちだ。議論や歩み寄りに時間をかけず、思考回路をスイッチオフして、目先の利益で動く者の決定に身を任せる。
世界には、正解のない命題だからこそ、持てる知見を合わせて挑む国々がある。反対派や懐疑派と対話しながらの合意形成には時間がかかる。紆余曲折しながらコツコツと取り組んできた国々の取り組みを、傍目で見て揶揄する資格は日本にはない。出してきたゴミ始末くらいは、未来への責任だ。他国の知見から謙虚に学ばせてもらおう。もう、待ったなしなのだから。
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