ハンブルグでのG20で、ドイツのメディア露出度が高まっている。そのドイツで、全ての人のための「人権」「公正」という点で、大きな決定が下された。
ドイツ連邦議会は6月30日、同性婚を合法化する法案を可決したのだ。これにより、同性カップルにも異性カップルと同等の権利が認められることになった。ドイツではこれまで、同性カップルが正式な「ライフパートナーシップ」を役所に届け出ることはできたが 、2人で養子を迎えることは認められていなかった。新法案の施行により、同性カップルにとっては「最後の障壁」が取り除かれることになる。
今回の投票では、野党を中心に賛成393票、反対226票の過半数で合法化が決定。本会議場では開票直後、同性愛者であるフォルカー・ベック議員(緑の党)の頭上で紙吹雪が舞った。同氏の長年の悲願がかなったからだ。
All of Germany's Muslim MPs voted in favour of same-sex marriage https://t.co/e1HMM0jsfZ #Ehefueralle @Independent #Merkel @Volker_Beck
— DIE SIEGESSÄULE (@Siegessaeule) 2017年7月5日
また、バルバラ・ヘンドリックス環境大臣が、議会終了後に、7年来の同性パートナーと10月に結婚すると発表している。一般席で議事を見学していたレスビアンのカップルが、採決後に感激のキスを交わすシーンも見られ、同性婚合法化の時機がいかに熟していたかを感じさせた。
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さて、今回メルケル首相自身は、反対票を投じた。「自分にとって、基本法(憲法)が認める婚姻は、男女の間で行われるもの」というのが理由である。首相はキリスト教民主同盟(CDU)の党首であり、同性愛はキリスト教の教義には沿わないからだ。事実、同性婚の合法化については長年連邦議会で討議が重ねられたが、首相は採決を先延ばしにしてきた。今回、CDUと連立する社会民主党(SPD)が、野党とともに同性婚を認める新法案を提出できたのは、メルケル首相が本会議の直前に、各議員の判断には党議拘束をかけない、という意味の発言をしたからだ。この結果、現役大臣を含むCDU議員の75人が賛成に回ったことも、決議に重みを与えた。
メルケル首相は、新法案の可決を潔く受け入れた。同性婚の合法化は社会的公正を実践することであり、政府として少数派にも多数派と同じ権利を保障する、という姿勢を表明できたからだろう。 総選挙の直前になって採決に踏み切った首相自身の政治的意図はともかく、結果としては、ドイツが戦後貫いてきた民主主義的価値観が、政党の倫理をしのぐ印象を与えた。
万人に対する公正、少数派の尊重。その原則を法で守るために、同性婚という微妙なテーマに政治的解答を出したドイツ。ヨーロッパ諸国は同性婚合法化の先駆者であり、2001年のオランダを皮切りに、現在まで、EU加盟28カ国の半数にあたる15カ国で同性婚が認められている。世界的にも見ても、過去15年間に米国や英国はもちろん、保守的なカトリック教徒が多いスペインやアイルランドなども含め同性婚を認める国が急増中だ。一方で、東欧や一部アラブ諸国のように同性愛が今日でも刑罰の対象になっている国や、日本や中国のように同性パートナーシップに関する法的枠組みすら、国レベルでは存在しない国もある。今後「社会的公正」という視点から、日本でも同性愛者の権利保障をめぐる議論が高まることを期待する。
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2015年プライドパレード@ケルン、「多様性こそ強さ」「メルケルさんこの壁を取り除いて」などアピール。
© CEphoto, Uwe Aranas
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