1月末、フランスのル・モンド紙に、ご存知「フーテンの寅さん」の写真が大きく掲載された。寅年を祝って、山田洋二監督の映画『男はつらいよ』50作品が、パリ日本文化会館で仏語字幕付きで1年にわたって上映されているからだ。同館では同時に関連書籍や寅さんグッズの展覧会も開催されている。
記事では「外国人には知られていないが、これまで6千万人の日本人が見た作品」と紹介され、「大島渚や今村昌平が日本の性的タブーや道徳の闇の部分を告発する作品を撮ったのに対して、山田洋二は庶民の生活を感受性豊かに描いた」としている。1969年に始まり2019年まで続く全作品を通して「都市化・環境破壊・経済競争が進み、同時に女性の地位も上昇した20世紀後半の日本社会の変化が描かれている」とあり、筆者も同作品を新しい視点で見直してみたくなった。
それにしても…「けっこう毛だらけ、猫灰だらけ」みたいな台詞がフランス語でどう訳されるのだろう。ステテコに腹巻姿の寅さんの何にフランス人が共感するのか私にはまったくわからない。でも、「日本人は経済成長の中で捨て去ったものを寅さんの中に見出した。人情、屈託のない笑い、ものぐさかと思えばお節介なほどに優しい……」とあり、おそらく今日のシックなフランス人が、生活の匂いや音に溢れたかつてのフランスに抱いているノスタルジーにつながるところがあるのかもしれない。
読み応えある『山田洋二の日本』クロード・ルブラン著(堂々の752ページ!)も昨年末、出版されたところだ。こちらは日本の社会経済の歴史と共に山田洋二の全作品を分析している。ちなみに、同監督作品の『小さいおうち』は2014年にフランスで公開され好評を得た。
すでに年配の日本通フランス人の中には根強いファンがちらほらいた寅さんだが、今年は、フランス人若者層の間でも「口が達者で、怒りっぽく、ドジ、お人好しで騙されやすく、女性に弱い」寅さんブームが起こるかもしれない。
私も早速予約を入れたが、実は大泣きするのではないかと恐れてもいる。