何が何でもオリンピックを開催するために、ガイジン選手や関係者だけはするりと入国させるらしい。在留資格を失ったガイジンは「不法」の名の元に追い出され、きちんとした「在留資格のある」留学生や研究者は締め出されたまま放置されている。日本は都合のいいガイジンだけを選り好みするのか。コロナの名の元に入国を拒否されている、まっとうな留学生や研究者が立ち上がった。
日本入国を拒まれる若手研究者
「研究者としてのキャリア計画がめちゃくちゃにされた!」悲鳴を訴え始めたのは、欧州の大学院生や研究者たちだ。ベルギー人の若手社会学者ジャック・ウェルスさんから嘆きを聞いた。
ジャックさんは、昨年、日本学術振興会の研究員として一ツ橋大学への派遣が決まった。スイスの大学から8年間のポストもオファーされたが、待望の日本行きが決まったので辞退した。日本とベルギー政府の間での正規の交換研究員だから、身分もしっかりしている。すべての準備が整った途端に、コロナ禍が勃発し、日本は緊急事態宣言を発出。水際対策として、「日本国籍保有者」以外の入国を一切停止した。以来、一ツ橋大学も駐日ベルギー大使館も何とかしようと動いてはくれたが見通しもないまま放置された。日本政府は昨年10月頃、猛烈に厳しい条件付きで一部入国を許可したものの、12月頃から、再び外国人への門戸を閉ざしたままだ。
ジャックさんは、社会学の立場から「日本入国希望者の入国禁止措置がもたらす影響」について調査し、その結果をYouTube動画でプレゼンした。高ストレス状態が長引き、経済的困窮と将来への不安は、健康やキャリアへの深刻な弊害を来していると警告する。
SNSで繋がり、記者会見で窮状をアピール
聞けば、似たような宙ぶらりん状態に置かれている人たちは、推定で数千人いるという。彼らの代表が、東京の日本外国特派員協会で、窮状を訴えるオンライン記者会見を行ったのは5月26日のことだ。
日本の仏教が研究テーマのフィリポさんは、この9月から中京大学へ、来年4月からは早稲田の大学院への留学が決まっているが、このままでは見通しが立たず、来年の計画も流れてしまうと悲痛な声をあげる。
ジュリアさんは、長年の日本語学習の末に、奨学金を獲得し、今年4月から埼玉大学大学院へ留学するはずだったが、1年経過して奨学金は失効してしまい、渡航費用を自力で工面しなければならなくなってしまった。今のところ、埼玉大学の授業だけは、イタリアからオンラインで受講しているが、時差の関係で昼夜逆転。バイトもしなければならない生活は崩壊しそうだと涙声になった。
国外で足止めされた学生らをつなぐツイッター画面
Facebook GroupやTwitterなどのプラットフォームを通じて、世界で同じような境遇に置かれている仲間とつながり、各国大使館やジャーナリストなどに働きかけ、日本政府の締め出し政策をなんとかしてほしいと訴えている。
未だに締め出しているのは中国と日本だけ
昨年前半は、どこの国も同じように国境を閉ざした。だが、欧米諸国を中心に、夏ごろから、次第に人権や経済活動や科学の振興を重視して「エッセンシャル旅行」の定義を見直して細かく定め、駐在員、研究者や留学生などには、ビザを発給し、入国を受け入れている。
もちろん、国によっては、当局が定めたホテルに自費で宿泊し、完全な隔離検疫を義務付けたり、有償のPCR検査を何度も受けさせられたりする。フィリポさんも、ジュリアさんも、「言われたことは何でも守る。ガイジンだからと入国を拒否する国は先進国ではありえない」と嘆く。厳しい措置をとってきたオーストラリアやニュージーランドも次第に留学生や研究者は受け入れはじめ、韓国などはむしろ暖かい支援の手を差し伸べ始めているという。
現在も、拒絶しているのは、日本以外では中国だけだと二人は語った。
「ガイジン=悪」ではない
日本のメディアでは、「水際対策がうまく行ってない」「外国から変異株がもちこまれる」といえば、あたかも外国からの「ガイジン」が、検疫官の指示に背いてどこへでも行ってしまうことが原因かのように伝える。だが、そもそも非日本人は入国させてすらもらえないのだから、問題なのは海外から帰国している「邦人」なのだということをはっきり伝えるべきだ。
観光や語学留学で外国に渡った日本人だって、オーバーステイ状態になっている人は掃いて捨てるほどいるが、彼らはコロナ禍でも、「不法滞在者」などと呼ばれることもないし、長期拘束されたり、強制的に追い出されることもほとんどない。
「ゼノフォビア(ガイジン嫌い)がこんなにひどいと知っていたら、日本を人生の中核に置くようなことはなかったのに」とジュリアさんはため息をついた。
非・互恵主義は許されない
一方、日本から諸外国への留学生や研究者はどんどん許可が出て渡航していることを日本人は当たり前だと思っていないだろうか。筆者が住むベルギーのルーヴェン・カトリック大学にも、慶応大学と早稲田大学から、森英毅氏と真辺将之氏が、客員研究員として渡白(白耳義=ベルギー)している。二人の話によれば、コロナ禍のこの1年、この大学だけでも日本からの研究者は他に何人も到着しているという。
研究者だけではなく、企業の駐在員も続々赴任している。欧州全体、世界全体では、日本から外国へは相当な数の人々が渡航しているというのに、こんな甚だしい非対称性・非互恵主義(non-reciprocity)が、いつまでも許されるはずはない。
自分たちは海外で研究できているのに、日本に入れずにいる研究者が山ほどいるという。©Kurita
前述のジャックさんの調査によれば、日本から締め出されて宙ぶらりん状態に放置されている留学生や研究者の多くは、経済的・精神的状態が悪化し、日本政府から無視されていると感じ、強い不公平感を募らせているという。
日本政府は3月、オリンピックに出場する選手や関係者だけは、検疫義務も免除で入国させると発表した。「おもてなしの国」は、国内や自国民のことばかりを考え、都合の良いときだけ、ガイジンを利用しているだけではないかと、締め出されている留学生や研究者は憤りを募らせているという。
記者会見で、「こんな仕打ちを受けて、日本に来る気持ちをくじかれたり、日本にうんざりしていませんか」と尋ねられたジュリアさんは、「できることならそういいたい。だが、人生のある時点で決意し、投資してきた時間と努力を、ここで投げ捨てることはできない」と答えた。
ちょっとした思い付きで「遊学」しようとした若者なら、もうとっくに諦めて、方向転換しているだろう。人生の中核に日本を置き、本気で日本を愛する世界の若き逸材を、コロナを理由にこれ以上排除し、いたぶり続けるのはやめてほしいと、筆者は心から願う。