「『ふくしまの水』が7年連続でモンドセレクションの金賞に輝いたって知ってる?」と在米の知人から尋ねられた。2年後に放出されるというトリチウム入りの海水の話ではない。福島市水道局が水道水をわざわざペットボトルに詰めて販売している飲料水の話だ。それが、ベルギーを本拠とする「モンドセレクション」という品質ラベルで、2021年もまた最高金賞をとったというめでたい話だ。
ベルギー本拠の2つの国際品評会での受賞を告知するポスター。これは2020年次のもの©福島市水道局
だが、モンドセレクションと聞くと筆者は微妙な気分になる。モンドセレクションはそもそも、第二次大戦後の復興期に、荒廃した欧州、そして世界の食品の質の向上を目指すという公的な目的で立ち上げたものだと聞いたことがある。
筆者が幼かった頃は、日本でもまだまだ戦後のどさくさが多少マシになってきた頃で、バターココナツだの、ギンビス・アスパラガスだのに、あのマークがついていると、なんだか世界的なすごいお菓子のような気がして、子供心にうきうきしたものだ。今思えばちょうど、フクシマを始め、日本のあちこちに原発ができて、白黒テレビがいつの間にかカラーになり、鉄腕アトムとウランちゃんに、明るい未来を投影していた頃と重なる。
年を経て、モンドセレクションは当初の目的を果たし、私企業による運営となって久しい。今も千単位で来るという毎年の応募は、アジアや南米などからが中心となり、中でも日本からの応募はその半分くらいを占めるという。モンドセレクションの本部が筆者の住むベルギーのブリュッセル郊外にあることはあまり知られていない。今では、似たような国際品質ラベルがいくつもできているが、それらはモンドセレクション以上に、知名度は低いものの、日本が重要なお得意市場であることは間違いない。こうした国際何とか賞への、日本からの応募の中心は、地方の味噌、醤油、梅干し、らっきょう…など。どんなに舌の肥えたプロとはいえ、欧州人の審査員がどう吟味し評価を下すのだろうと首をかしげてしまう。
ブリュッセルの南側郊外にあるモンドセレクション本部 ©Fujio
かつて何度か取材をしたことがあるモンドセレクションによる賞は、金賞何席、銀賞何席と、決まっている定数を競うような「コンテスト」や「コンクール」というものではなく、一定基準に達していれば全てに与えられる「品質認証マーク」。ただし、1件応募する度に、相当な応募費用がかかる。品質に大きな変化やぶれがない飲料水なのに、何年も連続して安くない応募費用を捻出してまで、お墨付きをもらわないといけないほど、「ふくしま」の水はすでに風評被害に曝されているのかと、筆者は複雑な気分になる。
それなら、なおさら、トリチウムなんて放出しない方がよいに決まっている。たった12年がまんすれば放射能が半減するなら、100年置けばほとんど無毒化できる。かつて原発をがんがん作ったように、巨大タンクをがんがん作って、廃炉の決まった他の原発敷地などにそっと100年置かせてもらえばよいではないか。世界の海はつながっているのだから、フクシマの漁師さんだけじゃなく、モンドセレクションの審査員も北海産小エビが心配になるかもしれない…。
一度始めたら、やめられない日本人。2年後にトリチウムを放出し始めても、「ふくしまの水」という名のペットボトル入りの水は、まだモンドセレクションに応募するのだろうか。そして、モンドセレクションは性懲りもなくお墨付きを出し続けるのだろうか…。溜息。
<トップ写真:街はずれにあるモンドセレクション本部の前のバナー。場末感が漂う ©Fujio>