新型コロナ感染拡大で、世界中が未曾有の体験におびえる中、大きな価値感の転換が起こりそうな予感がある…中国の大気汚染が改善され、ベニスの運河にイルカが戻ってきているとも。グレタと彼女を支持する若者は、希望の光を見いだしているかもしれない。(編集者加筆)
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気候活動家、グレタ・トゥーンベリはストックホルム出身の16歳。「世界の国々が目先の経済発展に気をとられ、今までのように自然破壊を続ければ、自分が大人になる頃の地球は見るも無残な状態になってしまう。研究者による事実に耳を傾け、議論だけではなく具体策を実行するべき」。こう訴え、2018年8月、たったひとりスウェーデンの国会前で座り込みのストライキをしたのが、気候変動に危機感を募らせる子どもたちの一大抗議ムーブメントの始まりだった。グレタの行動はSNSで拡散され、スウェーデン国内で多くの若者たちが彼女の意思に賛同。「未来のための金曜日」と題して、毎金曜日にストライキを行う抗議活動に波及した。今年3月、世界125か国で140万人以上が参加するデモとなり、さらには9月、国連気候行動サミット2019前後には日本をはじめ世界で200万人超が抗議デモを行うほどの大きなうねりが続いている。
さて、彼女の行動について、大人に踊らされている、お金もうけのためにやっている、などと揶揄(やゆ)する発言も聞こえてくる。しかし、社会に対して自分の意志を持ち行動する姿勢は彼女に限ったわけではなく、スウェーデン人一人ひとりに宿っている。例えば消費税25%など税金の使い道を左右する選挙についても日本人以上に関心が高く、2018年の国会議員選挙の投票率は87%を超えているのだ。
グレタを囲むベルギーのリーダーたち 右からアヌーナ、グレタ、キーラ、アデレード。2019年2月ベルギーにて ©Taz
さらに、ほとんどの両親が共働きのスウェーデンでは、子どもは1歳からプレスクールに通う。近くの森の中での遊びを通して自然に触れ、4歳からは自然環境を学び、義務教育の授業では環境意識を呼びさます工夫がなされているという。男女の機会均等の教育も幼い時期から始まり、学校では教師と生徒は名前で呼び合うなど、多様な場面で対等な関係が保たれているのが一般的だ。つまり、グレタの発言やストライキという行動が実現しサポートされた背景には、幼少時から自分で考え意思表示しやすい環境と、多様[森山8]な考えの人の存在を認識する機会が設けられている、スウェーデンならではの教育がある。また、彼女の英語の発音は聞き取りやすく言葉が聞く者の心に響いてくる。個人の資質にもよるが、7歳から始まるスウェーデンの徹底した英語教育も基礎になっているに違いない。
スウェーデンは1967年に環境保全機関を設立するなど、世界に先駆けて環境保全を意識した国であり、現在でも温室効果ガス削減に真摯(しんし)に取り組み、2020年には1990年の4割に、また、2050年にはゼロにする目標を掲げている。SDGsには、エネルギーの供給や分別ごみによるリサイクル、環境保全などについて、国とコミュニティーが連携して取り組んでいる。
11歳の時、アスペルガー症候群と診断された彼女は、症状を「贈り物」として受け入れた。その特性からか、ものごとに白黒をはっきりつけ、「普通」とされる大多数の人々のように空気を読んだ人づきあいが得意でなかったグレタは、過去には学校でいじめにもあいつらい思いもしたそうだが、家族の賛同や見守りもあって彼女は信念に基づいた行動ができ、そのため発言に矛盾がなく、政治家などからの大人気ない攻撃的な質問にもひるむことなく応対できるのだろう。世界的に活躍していたオペラ歌手であるグレタの母親も彼女の問題意識に賛同し、今では飛行機に乗ることをやめ、国内の音楽活動に徹して環境問題を訴えている。
自分で考え発信する少女グレターー彼女に「感染」して立ち上がる子供たちが欧州にあふれている © Taz
彼女の言葉には、彼女の魂が宿っている。誰かが書いた原稿の棒読みではなく、自分の頭で考えた自身の言葉を発信しているからこそ、インターネットやテレビを通しての映像からでも、多くの人々の心に届くのだろう。私たちは次世代の未来のために、今すぐ足元のできることから実行せねばならない。「あのとき大人たちは何もしなかった」と言われないように
*『monthly信用金庫』2019年12月号 WORLD REPORT vol.44 より、許可を得て転載