欧州連合(EU)は、COP22期間中に開催された海洋アクションデーで、気候変動についてのパリ協定実現に向けて、これまでの陸上での環境政策に加えて、海洋エネルギー開発に重きを置くことを表明。2050年までに総額3億2000万ユーロを投資し、EU全体のエネルギー需要の10%を「波と潮」でまかなう計画を示した。これにより年2億7600万トンの温室ガス削減に貢献するという。Brexitの英国、トランプ米国、安部日本など、やたらに内向きの短期的経済優先ばかりが加速しそうな世界情勢。地球規模での温暖化対策や再生エネ転換は失速しそうな気配だ。それでも、EUは、これまでの陸地での環境施策に加え、海洋ガバナンスを高め、持続可能な「ブルー成長」を推し進め、循環型経済モデルへの移行を提唱する。
欧州で再生エネ投融資加速――SDGsやCOPが追い風
EUで、サステナビリティ(持続可能性)への取り組みが始まったのは早くも60年代のことだった。半永久的な右肩上がりの経済成長は続かないと認識したからだ。70年代には初の「環境行動計画」を立てて、環境に配慮した経済成長のあり方を模索し始めた。第7次環境行動計画が施行中の現在は、2020年までに再生エネ20%(* )との目標に向かって、確実に歩を進めている。単なるお題目のような全体目標が掲げられているだけでなく、各国の実情に鑑みた段階的目標値が設けられ、加盟国間で相互協力を促す仕組みや達成できなかった場合の厳しい罰則も設けられている。こうした動きは、国連SDGs(持続的開発目標)やCOP(気候変動枠組み条約締結国会議)のパリ協定発効によって、拍車がかかっている。
[add_googlead01]
現実的な牽引エンジンとなっているのは、積極的な投融資のしくみだ。再生エネ・温室ガス削減分野の新規事業は、リスクが高く、採算に乗るまでの期間が長いため、通常の金融機関から投融資を受けるのは極めて難しい。このため、同分野への、ことに小規模な民間事業などへの投融資を促進するために、EU資金が強力にバックアップしている。その中核となっているのが、欧州委員会の欧州戦略投資基金(EFSI)だ。このファンドが保証することにより、欧州開発銀行(EIB)や加盟国の地元の金融機関がリスクを恐れず低利子で長期的な視野にたった投融資を可能にしているのだ。
2016年11月、パリ協定が発効した前後だけみても、加盟各国の同分野の民間事業に、EU絡みの大型融資が次々と決まった。たとえば、ドイツのスタンドウェルケ・キール(Standtwerke Kiel AG)社の地熱発電事業に1億500万ユーロ、フランスのソシエテ・ジェネラル社(Societé Générale)の再生可能燃料を活用する海上運送事業に1億5000万ユーロ、イタリアのドロミティ・エネルジア社(Dolomiti Energia)社の水力発電や送電網改善事業に1億ユーロといった具合だ。融資先は大企業ばかりとは限らない。人口500万のフィンランドはイノベーティブな小規模事業で定評があるが、住宅供給会社サト社(SATO)が推進する再生エネ(木材の廃材など)活用の実質エネルギー消費ゼロの都市住宅事業に1億 7000万ユーロ、また、電気自動車で知られるヴァルメット・オートモティヴ社(Valmet Automotive)による資源生産性向上技術にも2,000万ユーロの融資が決まった。それぞれ、日本円にすれば30億~200億円程度で、国や大企業への融資額としては見過ごされそうだが、民間企業の再生エネルギー・温室ガス削減事業に、半月足らずの間にこれだけの融資が続々と決まるというのが、加速度のついたEUの取り組みが感じられる。
[add_googlead01]
海洋ガバナンスを向上させ「持続可能なブルー成長」を目指す
欧州委員会の環境・海事・漁業担当委員カルメニュ・ヴェラ委員は、COP22(気候変動枠組み条約締結国会議)期間中に開催された海洋アクションデー(11月12日)で、パリ協定推進努力としてEUが力を注ぐ「持続可能なブルー成長」(sustainable Blue Growth)や海洋エネルギー戦略を発表した。それはどのような成長戦略なのだろう。
それは、海洋資源の「持続可能な利用」に努めることで、雇用を生みや経済成長しようというものだ。一般的に、海洋資源といえば、魚介類、石油・ガスなどの鉱物資源、海運・港湾、沿岸観光などと考えられてきたが、これからはバイオテクノロジーや海洋エネルギーも注目される。EUは、6万6000キロの海岸線と2500万㎢という世界最大の排他的経済水域を持つ。これをリソースと見なして、持続可能なブルー成長を推進すれば、経済成長や雇用創出ばかりでなく、環境改善や生活の質の向上にもつながるはずだ。この構想の中で中心的な役割を果たすのが、「海洋エネルギー開発」。欧州委員会は2016年11月始めに「海洋エネルギー戦略ロードマップ」 を発表したばかりだ。
今のところ、波や潮によるエネルギーは、EUのエネルギー需要の0.02%まかなっているに過ぎない。しかし、このロードマップによれば、2050年までにこれを10%まで高め、毎年2億7,600万トンの温室ガス排出を抑制することができるという。波ならともかく、潮によるエネルギーとはどういうものなのだろう。それは、表層と深層の海水の温度差を電力に変換する「海洋温度差発電(OTEC)」や、海洋と河川の塩分濃度の差を利用して発電する「海洋濃度差発電(SGP)」などで、その研究・開発に、今後10年間に10億ユーロの投資を計画しているという。
「加盟各国の再生エネ・温室ガス削減民間事業への資金支援は、これまでロー・プロファイル(目立たないやり方)で進めてきたが、反EUポピュリズムが台頭する中でパリ協定を牽引していくためには、もっともっとEUの積極介入をアピールしていくべきだ」と欧州開発銀行・インフラ投融資シニアマネージャーのピエール=エマニュエル・ノエル氏は語る。
EUではこの数十年、海洋資源を健全に保全・管理するための海洋ガバナンス能力の向上に努力してきたが、パリ協定推進のためには、地球規模での海洋ガバナンス向上が必須と働きかける。つまり、プラスチックを中心とする「海洋ごみ」への対処はもちろんのこと、海洋資源を管理・運営する国際的な法秩序だ。
海洋が健全ならば、地球が必要とする酸素の半分を生成し、二酸化炭素の約30%をも吸収し、地球規模の気候調節に極めて重要な役割を果たすという。海洋ガバナンスを改善し、「持続可能なブルー成長」が地球レベルで広まれば、環境か経済かを云々する時代は終わる。保護主義や国粋主義が蔓延する今日の世界情勢で、EUは実質エネルギー負荷ゼロの循環型経済(サーキュラー・エコノミー)を、EU内ばかりでなく、世界に押し広めようと孤軍奮闘しているように見える。
[add_googlead01]