3月31日、フランス、パリのレピュブリック広場で、「La nuit debout」(ラ・ニュイ・デゥブ)運動が始まった。あえて和訳すれば、「立ち上がれ、夜よ」とでもいったところだろうか?
発端となったのは、5月3日から国民議会で審議される予定の労働法改正案だ。競争力を強めるといいつつ、労働者の使い捨てを助長する内容で、国民は強い反発を示している。2月から週末ごとに反対運動が起こるようになり、それが、今、連日、レピュブリック広場を占拠する「La nuit debout」(ラ・ニュイ・ドゥブー)運動につながった。
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それだけではない、もう、ここ数年、国民は既存の政治、いや、金融市場に牛耳られる政治にブーイングを浴びせてきた。
そのひとつの現象が、最近、口コミで観客数を爆発的に伸ばしているドキュメンタリー映画、「社長さん、ありがとう!Merci Patron!」だ。LVMH ( Louis Vuitton, CELINE, KENZOなどの高級ブランドを傘下におくコングロマリット ) にリストラされた労働者と映画監督フランソワ・ルファンを含めた有志が団結し、LVMHの株主総会に直訴しに行こうと企てるという筋書きだ。隠しカメラで撮影したノンフィクション映画で、LVMHの会長、ベルナール・アルノー氏にとっては、一労働者など将棋の駒にすぎないことが暴かれる。(私はこの作品を見て、二度とKENZOは買わないと決心した。)わずかな資金で撮影された作品だが、あっという間に口コミで広がり、連日、満員御礼となった。
そして、つい数週間前のパナマペーパーの衝撃。億万長者と普通の労働者との間の目もくらむほどの差を象徴する、いくつかの出来事が相次いでいる。「La nuit debout」(ラ・ニュイ・ドゥブー)運動は起こるべくして起こったとも言える。
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モデルとなったのは、2011年、経済危機のどん底にあったスペインで起きた「怒れる者たち Los Indignados」(ロス・アンディナドス)運動。若者、失業者、移民、年金生活者が集まって始めた公共広場占拠運動だ。当時、スペインに旅行をしていた私は、ホテル近くの広場が市民によって占拠され、具体的なアクション、たとえば失業して家賃が払えずアパートから追い出される市民を援助したり、あるいは毎日満足に食べることができない人のために食事を提供する場になっていたことに驚いた思い出がある。これは、のちに、「ウォール街を占領せよ」運動のモデルにもなった。
今、フランスでは、社会党が政権を握っているが、その政策は右派サルコジ政権の延長でしかない。「la nuit debout」(ラ・ニュイ・ドゥブー)運動は、どの既存の政党にも期待できなくなった市民が、広場を占領し、古代ギリシャ時代のアゴラを想起させる民主的な話し合いの場をもち、腐敗しきった政治を自分たちの手に取り戻そうとする動きだ。毎週土曜日の午後は、大集会が行われている。4月16日、やっと春らしくなった日、私も行ってみた。最寄りの地下鉄駅は閉鎖されており、機動隊が道を塞いでいる。
広場には、いくつもスタンドが立っている。ラジオ局、食堂(自分が払える金額をはらう)、みんなが持ち寄った本を交換するミニ図書館、ホームレス援助センター、法律相談所、難民援助センター、プラカード作成アトリエ、すべて自主的に運営されている。
夕方6時。陽が長くなってきたので、まだまだ明るい。大勢が地べたに座って、集会に参加している。次の週に、どのような活動をするかが話し合われており、今日のプログラムには、ブラック企業で名高いマクドナルド北駅店占拠、5月のメーデーデモ企画というものから、オランド大統領に送る「大統領解雇通知」といったパロディー風のアクションもある。
発言したい人はリストに登録し、2分間、話すことができる。他人のマイクを奪ったり、発言を遮ったり、口笛を吹いてからかうことは禁止されている。その代わり、参加者は、仕草で反応を示すことができる。腕で十字を作れば「反対、異議あり」、両手をふれば「賛成」という意味だ。しかし、人種差別的な発言やホモフォビー、セクシスト発言は、はっきり禁止されている。
スペインの「怒れる者たち Los Indignados」(ロス・アンディナドス)運動はポデモス党に発展し、2015年のスペイン議会総選挙では3位になり、政治的な発言力をもつ党に成長した。フランスの「La nuit debout」(ラ・ニュイ・ドゥブー)運動はどこまで発展できるだろうか。1871年、普仏戦争で敗退し、プロイセンと和平協約を交渉した政府に反対し、史上初の労働者による自治政府を成立させたパリ・コミューン運動、1968年の5月革命で国全体をゼネストに追い込んだ歴史をもつ国である。なにが起きてもおかしくはない。
トップ画像:「La nuit debout」(ラ・ニュイ・ドゥブー)運動の、毎週土曜日の集会 4月16日、フランス、パリのレピュブリック広場 © Natsuki PRADO
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