なし崩し的に「やるしかない」ムードの東京オリンピック。6月8日、東京オリンピック組織委の橋本聖子会長が、外国人ジャーナリストは日本滞在中、スマホのGPSで行動を監視し、ルールに違反して、許されているオリンピック関係の取材先以外を行った場合には、オリンピック記者証をはく奪すると発表した。当然、このルールは日本人ジャーナリストには適用されない。
日本では話題になっていないようだが、海外ではけっこうな議論を呼んでいる。組織委の武藤敏郎事務総長は、「現在のコロナ禍では許容される程度の措置であって、報道の自由の制限にはならないと私は思う」としたが、少なくとも欧州では、GPS追跡は、IT技術によるプライバシー侵害の典型とされ、被疑者などに対してであっても、当局が強制的に使うことには極めて慎重なことを知らないのだろうか。
ベルギー・ブリュッセルに本部を置く国際ジャーナリスト連盟(International Federation of Journalists=IFJ)のアジア支部は、6月16日、「このような措置はジャーナリストのプライバシーを否定し、報道の自由を制限する。この規制を撤回し、ジャーナリストを含めたすべての人たちの安全を確保する別の方法を早急に検討するよう求める」との声明を出した。IFJは、世界40カ国にいる60万人のジャーナリストの声を代表する組織だ。
外国人観客を締め出しても、外国からやってくる人の数は、オリンピックだけで(パラを除いても)6万人と推計されている(内閣官房情報)。そのうち、ジャーナリスト(文字媒体)は5500人、映像媒体を含めても約2万人。つまり、IOC関係や大スポンサーなどのVIPや競技団体関係者などが多く、彼らは「選手村に閉じ込められる」わけでも、GPS追跡されるわけでもなく、都内のホテルに滞在して、自由に行動することになる。コロナ禍で危険視されGPS追跡されるべきは、ジャーナリストだけなのか。
すでに日本に入っている映像媒体関係者の中には、歓楽街に出入りしている人がいるとの指摘もある。最新のプレーブック(最新の6月発表第3版、日本語版は6月17日現在未発表)では、彼らは二週間の検疫を要請されるが、「どうしても取材・撮影が必要です」というような一筆があれば、いつでも検疫は免除されるらしい。
そもそも、いくらGPS追跡しても、二つ以上のスマホを使い分ければ、いくらでも抜け道はあるし、ジャーナリストだけを監視しても、公平性も、コロナ感染予防効果への合理性も乏しい。
ガイジンが新しいコロナ株を持ち込む危険ばかりが取りざたされるけれど、彼らが感染し発病したら、日本の医療はきちんと治療してくれるのだろうか。ダイアモンド・プリンセス号の悪夢が頭をよぎる。
IFJの抗議に続き、7月2日には、ニューヨークタイムズなどアメリカの有力12紙が、連名で組織委に抗議文を送ったことが報じられた。GPSなどによる個人のプライバシーの軽視、日本の記者との差別、報道の自由の侵害などをアピールして、再検討を求めている。(7月3日追記)