コロナ禍で、世界の距離が突如として縮まった。ネット活用が飛躍的に身近になり、自宅と世界が結ばれるようになったのである。ホームオフィスに代表されるような新しい労働形態は、国を選ばない。
例えばドイツのデュッセルドルフは、ヨーロッパの日本企業の拠点で、数百社が駐在員を送っていたのだが、コロナ禍以来、彼らの多くは日本に帰国した。それは、先行き不透明なこともさることながら、ZoomやGoogle meetやTeamsなどビデオチャットやビデオ会議のアプリが発達し、企業は家族帯同で高くつく駐在員をもはや送らずとも事足りると気が付いたからである。
一方、ドイツに住んでいる私は、日本で行われている講演会、社会人講座、演劇、コンサートなどにリアルタイムで参加できるようになった。以前にはとても考えられないことだった嬉しさから、日本語で参加できるラクさも手伝って、次から次へと視聴した。日本の午後から夜の時間は、時差のおかげで、ドイツでは朝から午後にあたるので、ちょうど具合がよい。
さてそこで、思いついた。9月11日(土)ドイツ時間15時から、ドイツの森の中で開催されるバイオリンとピアノのデュオコンサートをライブ配信することに。日本時間では11日(土)の22時から。バイオリニストもピアニストも欧州を代表する一流の音楽家たちだ。特にピアニストは、この5月、スイスのゲザ・アンダ国際ピアノコンクールで優勝したばかりである。
どうして、こんなところでコンサートを行うのか。実をいうと、人里離れた森の中にある開催地は我が家で、その裏には、こういう歴史がある。
1937年、デュッセルドルフで楽器店(ピアノハウス)を営んでいたハインツ・ヨーダンスは、現在のシュヴァルムタール市リュッテルフォーストの森の端に夏の別荘を建てた。家の主にふさわしく、この別荘では、当時の名手たちによる室内楽コンサートが頻繁に行われていた。広いリビングルームは、かつて最適な音を出すために、特別に設計して作られたものだった。
ハインツ・ヨーダンスの夏の家に続く小道。人里離れた森の中にある夏の家は、音楽を愛しむ隠れ家となった ©Fuchs Mariko
時はちょうど、ナチスが政権を取ったころ。この家と人々は、その暗い時代を生きてきたが、音楽はそのような日々においても、人間の精神の尊厳と美しさを保ち、それを体現していた。 60年後、まさに運命のいたずらで、私たちはこの家を入手した。そして、その音楽の伝統を引き継ぐべく、戦前の建物を丁寧に修復した後、「室内楽シリーズ」という形でコンサートを開催する運びとなったのだ。詳しくは、こちらから。
「森のコンサート」(収録済、いつでも再生可)
9月11日(土)日本時間22時から(ドイツ時間15時から)
演奏:Emir Imerov (バイオリニスト)とAnton Gerzenberg(ピアニスト)
<プログラム>
- ブラームス: スケルツォ ヴァイオリンソナタ第3番
- ベートーヴェン: クロイツェルソナタ
バイオリニストのエミールとピアニストのアントン ©Emir Imerov
ブラームスは、心疲れて田園に逃れたころ、このバイオリン・ソナタの曲想をその自然から得たのだという。日本の皆様にも、コロナ疲れをぜひこのドイツの森のコンサートで癒していただきたい。
今回は初めてライブ配信するので、日本の皆様にも視聴していただける。
ライブ配信したものをいつでもこのURLから再生可。ご挨拶のスタートは10分45秒頃から(ドイツ語→英語→日本語)、コンサートスタートは17分頃から。さあて、ドイツの深い森から、日本のお茶の間に癒しの音楽が無事ながれるだろうか。