次期米国大統領がトランプ氏という結果になった。この番狂わせに、世界中のメディアがそれぞれの視点でいろんなことを伝えているが、政治的な話は別として生活者の視点から伝えてみたい。
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一大統領候補者だった男が米国の次期大統領となることが決まった日。ミシガン州のロイヤル・オークのミドルスクールでは、ランチタイムに心無い子どもたちが”Build that Wall”(壁作れ!)とはやしたて、ラテン系の子どもが泣き出すというイジメが起こった。その動画はFacebookに投稿され、たった1日で10万以上シェアされ、今もべージ・ビューは増え続けている。同様の事件はわたしの住む町のミドルスクールでも起きた。子どもに言わせれば、次期大統領の言動を真似しただけのことだ。とんだ免罪符を与えることとなり、学校の先生にとっても、これから頭の痛いことになると同情する。
2年近くに及ぶ大統領戦の中で、トランプ氏は差別発言や暴言を放ちながら、人々に恐怖をうえつけることで今回の勝利を制したと言っても過言ではない。白人至上主義を唱える差別団体クー・クラックス・クラン(KKK)に公式に支持表明されている候補者が勝利したのだから、有色人種や異宗教の者にとって恐怖を感じても不思議はない。
「トランプ勝利」はこれまでの多様性を認めよう、ダイバーシティーこそこの国の良さであるという価値観が一変して白人社会、クリスチャンこそが本来の姿であると言わんばかりに映る。さらに、銃規制もこれで完全に暗礁に乗り上げたことになり、あらゆるマイノリティーにとって、たいへん居心地の悪い社会にシフトしそうだ。
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SNS上では、モラル、社会秩序、良識、人権、差別などという言葉が踊り、トランプに一票を投じた人への批判や嫌悪のコメントが止めどなく溢れはじめた。いかに国が分断されてしまったかを感じる。トランプに投じた人にも、それぞれの理由はあろう。差別発言や暴言がひど過ぎて、候補者以前に人として信じられないという人がいる一方、「それぐらいの人じゃないとダメ」とそれを推す人もいるし、何の考えも想像力もなくただ、クリントン嫌い票もありでその溝は埋まりそうもない。
今回のレースが単純に支持政党の違いというなら、こうした混乱にはなっていなかっただろう。トランプ氏だけは受け入れられないという動きが活発化している中、「もう決まったのだから落ち着きなよ」と促す人々に、“怖い”と震えている人の気持ちは理解し難いようだ。
米国社会にはいろんな差別があり、それが犯罪の源となっているのも現実だ。その中で辛い経験をしている人はたくさんいるが、社会的弱者を嘲笑したり、差別的、侮蔑的発言など、トランプがこれまでに晒してきた品位のない言動は、繰り返しメディアで流れ続けたのだから、マイノリティーや社会的弱者にとってトランプは、ドラえもんのジャイアンみたいなものなのだ。いや、ジャイアンとて彼ほど自己中かつ危険ではないのでジャイアンに失礼かもしれない。
たとえば、レイプされたことがある人にとっては、かつてのレイプ魔がトランプ氏の顔に投影されてもなんら不思議はない。それほど恥知らずな言葉を吐いてきた。今も数々の差別を受けている人にとっての新大統領は、「悪を容認する敵」としか映ってはいない。酔ったおっさんのひとりなら無視すればいいが、仮にも国のリーダーである。
オバマ大統領は、選挙前に、異例中の異例ともいえる、「トランプは大統領に不適格」との声明を出していたが、そのメッセージは届かなかった。その現実は、今後も米国社会に大きな爪痕を残しそうだ。最高の権力を手にしたいじめっ子でも、のび太やドラえもんの力を借りて、4年後まんざらでもなかったなと笑える日を迎えたいものだ。
(「海外在住メディア広場」が運営する「地球はとっても丸い」より転載)
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