世界コロナ日誌も回を重ね、17回目は韓国。日本のメディアや知識人の中で、ITも駆使したコロナ対策が度々参照される。徹底した管理政策が、市民にどのように受け入れられているのか、気になるところだ。韓国社会に根差した生活目線で発信するライターの原美和子さんに、レポートしてもらった。
<トップ写真:ソウル市の文大統領(右スクリーン)と釜山市(左)をつなぐ、コロナ対策のリモート会議> 写真:Busan Metropolitan City
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新型コロナウイルスの猛威が止まらない。今や感染は欧米さらには全世界に広がりを見せ、先日からは日本でも感染者が急増し懸念されると共に、「緊急事態宣言」も発令され、市民生活にも影響が出始めている。私自身も日本の状況を毎日心配しながらも、既に2ヶ月近くに及ぶ自粛生活をここ韓国で送っている。
韓国の感染者数は2020年4月17日現在10,635人で死亡者は230人、既に治療を終えたり、軽症者で隔離期間が解除された人は7,829人となっている。韓国で発表される感染者は、「確診者」つまり、検査の結果、陽性が確認された者を意味する。
私の住む南東部にある第2の都市・釜山については、2月22日に初めての感染者が確認されてからこれまでに123人の感染が発覚し、このうち3人が死亡、99人は既に回復、現在も治療中の感染者は21名となっている。韓国で感染者が爆発的に増加を始めたのは2月下旬であった。第3の都市・大邱に住む60代の女性が感染者として確認された。これがきっかけで彼女の濃厚接触者たちが次々に感染しているのがわかった。彼女が通う新興宗教の教会内で大規模なクラスターが発生したことで、大邱を中心に感染者が急増したのである。
そして、感染は大邱とその郊外、さらにはソウルや釜山の都市部にも広がり、政府は国民に外出や集会等の自粛を呼びかけた。また、春休み中であり、3月2日に新年度を迎える全ての教育機関の開始を2週間延期すると共に、学習塾といった習い事についても休止するように求められた。感染者の急増と同時に、国民の行動の自粛や学校の休校が発表されたことで緊張感が一気に高まった。発表の翌日には市内の多くのスーパーで食料品や生活用品を買い求める市民の姿が見られた。そして、その翌日より街中から人々の姿が消え、ゴーストタウンの様相を呈していた。
<感染者の急増が発表されるとスーパーなどでは多くの人が食品や生活用品を買い求める姿が見られたが、品切れなど大きな混乱は起きなかった。韓国でもその後Social Distance(社会的距離)が強く奨励されているが、この時はまだ実施されていなかった> ©Miwako Hara
匿名化して行動公開
韓国で今回、学校の休校や外出の自粛に対する大きな混乱はさほど起きていないという印象である。それは、新型コロナの対応について、国と地方自治体が一体となった対策で善戦をしているという点が挙げられる。その背景には5年前のMERS(中東呼吸器症候群)による流行と混乱という苦い過去が関係していると言える。2015年のMERS流行当時は朴槿恵(パク・クネ)氏が大統領であったが、政権ですら感染者についての正確な情報把握ができておらず、初動が遅れた上に、その後も発表が二転三転するなど国民は不安と混乱に陥った。
この時のことを教訓に、感染症予防法が成立。今回はこの法律が大いに生かされて、国民への積極的かつ徹底した情報公開を行っている。韓国では感染者が確認されると感染者は番号で「○番感染者」と呼ばれる。そして、感染が確定する前の数日間の「動線」という行動が事細かに発表される。それは、感染者が訪れた場所と時間帯、利用交通機関などにまで及ぶ。感染者の行動が曖昧な点などがあった場合は感染者のクレジットカードやキャッシュカードの利用記録の照合も行うという徹底ぶりだ。そして、感染者に関する情報は、政府や自治体のサイトやSNSで公開され、さらには携帯電話にも送られる。
併せて政府や地方自治体は、毎日午前と午後に感染者数発表や状況についての記者会見を行っている。こうした積極的な情報公開の姿勢は、緊張感をもたらすと共に、衛生管理や外出の自粛などへの意識を高める要因になっていると言える。
<釜山市の広報紙「ダイナミック釜山」の日本語版。新型コロナウイルスに対する釜山市の取り組みが詳細に記されている>©Miwako Hara
<マンションのエレベーターのボタンは除菌シートがコーティングされている> ©Miwako Hara
パソコンやネット接続も援助
本来は毎年3月初めに新年度を迎える韓国ではあるが、今年は休校の延期が2週間ごとに4回繰り返され、遂に教育部(日本の文部科学省に相当)は、学校の開始時期は未定のまま、家庭でのオンライン授業を進行することを決めた。
例年、11月に行われる大学入学試験についても、史上初の延期により、今年は12月とすることが決定された。進路を決める学年となる中学3年生や高校3年生、また、新たな学校生活を迎える新入生とその親たちにとって不安や負担が大きい休校ではある。だが、韓国全土の自治体で足並みを揃えた、生徒たちの健康・安全面を重視した決断は評価できるのではないだろうかと思う。
今週から本格的にオンライン授業もスタート。小学生は教育部のサイトの学習動画の利用を、中学・高校生はZOOMを使ったライブ授業という形態である。オンライン授業を開始するにあたって学校から各家庭へのインターネット環境についての聞き取り調査が行われ、パソコンやインターネット環境が整っていない場合は市町村を通じて、現物支給などの形で援助を受けることができる。オンライン授業は教師にとっても生徒にとっても初の試みであるため、課題や問題点なども起こるものと思われるが、今後の学校教育の在り方にも一石を投じるものとなるのではないだろうか。
新型コロナ対策に一つの正解はない
子どもたちの休校も相まって、家で過ごす時間が圧倒的に多い現在、友人たちとのLINEなどのSNSを通じてのチャットは気休めにもなっている。しかし、そんなチャットも話題はやはり新型コロナ一色である。韓国の友人の他、日本やアメリカ、東南アジアにいる友人たちとのチャットを通じて見えてきたのは、新型コロナ対策はその国の国民性や政治的な背景を反映しているということ、全世界が未知の感染症を前にして進める対策に「正解はない」というのが本当のところではないだろうかということである。
気になる情報も…
4月に入り韓国に収束の兆しが見え始め、人の動きも少しずつ以前のように戻りつつある。しかし、このようにピークが過ぎて人々の間に安堵感が漂って来た時が油断にもつながり危ない…という声も聞かれる。そしてそれを示すような気になる情報も入ってきている。ここ最近、新型コロナウイルスによる感染症が完治した人の中で再び陽性となるケースが多発しているというものである。その数は163名にのぼっていて20代に多く見られるという。このことから、感染増加の第2波が発生することも懸念される。まだまだ予断を許さない状況であることに変わりはないだろう。
韓国では、先日、4月15日には総選挙が行われ、文在寅(ムン・ジェイン)大統領率いる与党が圧勝をおさめた。昨年より日韓関係の悪化や側近のスキャンダルで厳しい立場に追い込まれていた文大統領であるが、新型コロナウイルス感染拡大に対する対策が国民から評価されたものとみられている。
<「社会的距離」をとって並ぶ有権者>写真: Bonnielou, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=89072992
<4月15日に行われた総選挙では事前に投票所での新型コロナウイルス対策についての注意事項が周知された>©Miwako Hara
日本人である筆者にとって今回の韓国与党の勝利は複雑というのが本音であるが、文大統領がこれで安泰かと言えばこれも不透明であると言えよう。むしろ、新型コロナウイルス感染の収束後に正念場を迎えることとなる上、世界的に見通しが厳しい中で韓国が独自に経済の立て直しを行うことはかなり厳しく、再び国民の不満が文大統領に向かうことも予想される。
長く厳しい道のりは続くが、一日も早い収束と世界に平穏が訪れることを願わずにはいられない。
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<寄稿者プロフィール>
原美和子/Miwako Hara
2002年より韓国に在住。韓国の他、学生時代より留学でニュージーランドやオーストラリア、さらにタイなど海外での生活も長きに亘る。韓国の時事や教育、ビジネスや旅行、グルメ、美容、芸能まで多分野を得意としている。