今年6月、カナダG7で署名された「海洋プラスチック憲章」――日本は、米国と共に仲良く署名を拒んだ。プラ廃絶は消費者への影響が大きいとか、経済界との調整ができていないというのが政府の言い分。昭和の経済成長を今も誇る日本の産業界が、自ら、思い切った方向転換をするわけもない。そんな日本を後目に、ヨーロッパでは、海洋ごみ問題をチャンスとして、化石燃料からの脱却を加速し、新時代の産業を育てよう、循環型経済への転換を押し進めようとの勢いがある。政治も、企業も、研究界も、市民社会も本気だ。
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Rethink(考え直し)が浸透
今、欧州各地では、小学生も、主婦も、若者たちも、何かにつけて、「プラスチックをやめよう」という意識が高まっている。子供たちは学校や課外活動などで、いやというほど考える機会を与えられ、アイデアを出し合っているから、親たちが迂闊に使い捨てプラを選べば、厳しく叱られてしまう。スーパーには、マイバックをもって出かけるのが習慣になって久しく、ガラスコップに紙ストローを出す喫茶店を好んで自転車でやってくる若者が増えている。
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こんな市民や社会の動きをまとめて「プラスチック公害のない未来」を希求するグループが、欧州中に数多くあるが、そのハブ役を務めているのが、Rethink Plastic Alliance(考え直そうプラスチック同盟)だ。消費者や市民の声に、欧州のプラスチック産業や研究機関の知見をつなげ、EUの政策決定者や立法関係者を動かすのがその使命だ。彼らが提唱する3つのRのうち、今、とにかく重視されているのは、Reuse(そのまま再利用)でもRecycle(再生利用)でもなく、Reduce(削減)すること。従来のような悠長なリサイクル推進では、火急のプラ公害による海洋環境破壊を食い止める助けにはならないからだ。日本のように、せっかく回収したプラごみが焼却や埋め立てに使われては、貴重な化石資源の浪費だし、中国や東南アジア諸国の受け入れストップで行き場を失ったプラごみが不法投棄されれば海洋汚染に拍車がかかる。欧州の趨勢は今、「とにかく使い捨てプラを減らす」こと。そして次に重視されるのはRedesign――従来のプラスチックに代わる代替品の開発、使い捨てないプラスチック製品の再設計(Redesign)にも、今まさに全力が注がれている。
付け焼刃じゃないプラごみ政策
EUが、プラごみの主犯は「使い捨てのレジ袋」と「ペットボトル」と分析し、リサイクル云々よりも、絶対量の大幅削減こそ最優先と結論づけたのは、2013年9月に開催されたプラ廃棄物に関する国際会議でのことだった。市民団体から産業界、研究者、政治家など、あらゆるステークホルダーが一同に会した。その結果、2015年「プラスチック袋指令」と呼ばれるEU法を採択。全加盟国に対し、禁止または課金などの法的措置によって、10年以内にレジ袋80%削減を達成することを義務付けた。英、仏などは率先して全面禁止し、この動きはEUばかりか、世界に波及。今では、禁止などの法規制がとられる国は60カ国にも昇る。地方政府レベルの規制も含めれば、自主規制だけに任せているのは、先進国ではほぼ日本だけだ。
プラ袋指令直後には「環境中のプラスチック廃棄物に関する欧州戦略」と題したグリーンペーパーを発表して、それまでの分別や従来の3R(reduce/reuse/recycle)などを抜本的に見直した。
緊急のプラごみ対策に並行して、EUは、2015年12月「循環型経済パッケージへの行動計画」を発表。この行動計画の中では、プラスチックを含む、より広範な分野で、人類が地球環境に与える負荷を最小とするために、資源の効率的使用を徹底的に見つめ直した。この中で提起する5つの優先分野の1つが、今年1月に発表された「プラスチック戦略」だ。
脱炭素で、資源利用効率を究極まで追求し、それでいて競争力があること―――これが、欧州のプラスチック戦略の基本方針だ。プラスチックが製造されてから消費されていく価値連鎖(バリューチェーン)の各過程を、再利用やリサイクル可否、生分解性、有害物質の媒介といった弊害、海洋ごみとなる危険などの観点から、気候変動、環境への負荷、研究開発可能性などと照らし合わせて、厳しく精査せよと定める。
ここで注目したいのは、欧州が、我慢と節約で景気後退も辞さないというのではなく、むしろ、新分野に集中的に投資することで、化石燃料時代の終焉後にやってくる新エネルギー時代の新産業を育み、雇用を育てようとしている点だ。前世紀に世界がうらやむ高成長を果たした古い産業から、最後の利益を絞り取ろうとしがみつく国とは対照的だ。
こうしたEUの方向性は、国連の持続可能な開発目標の14番目(海洋と海洋資源を持続可能な形で保全し利用する)にも、また、パリ協定の脱炭素化の方向にも沿ったもの。欧州の国々は、EUやOECD、国連といった国を越えた枠組みと協調することによって、一国では時の損得勘定に流されそうな誘惑をはねのけようとしているかのようだ。
©European Union, 2018 / Source: EC – Audiovisual Service
使い捨てプラ廃止宣言が続々
こうした流れの中で、今年5月末、EUの行政執行機関である欧州委員会が法案を提出し、欧州議会の環境委員会も7月、一段と厳しい内容を盛り込むよう意見書を出したことで、世界の動きを前倒しに強く促している。この法案は、海洋ごみの80%を占める「使い捨てプラ製品」(Single-use plastic)を始め10のカテゴリーで、使用禁止または大幅削減を求めるもので、ファーストフードなどでのストローやマドラーなどの使い捨てプラの使用禁止、コップは課金制にして大幅削減を目指すこと、ペットボトルは、2025年までに回収率を90%に高めることを加盟国に求める。代替製品開発を促進させるために、生分解性プラスチックなどの技術革新を促すためのあらゆるインセンティブを講じることも盛り込まれている。
こうしたEU政策や憲章などに、各国や企業は、いやいや後ろ向きに従っているのだろうか。筆者の見立ては逆だ。すでに、マクドナルドが英国・アイルランドで、率先して使い捨てストローを止めることを宣言したように、また、世界食品最大手ネスレが、2025年までにプラ容器や包装材を再利用・リサイクル可能なものに転換させるとし、イケアも2020年までに使い捨てプラ製品の販売ストップ、ヒルトンも欧州を中心にストロー使用ストップと、大手多国籍企業のいくつかは、自らのリーダーシップを発揮している。国ごとの政策は、EUが義務付けたり、推奨したりする内容を飛び越えて、より厳しく、より野心的で、より斬新なものも多い。フランスやイタリアは、EUが定めた期限よりずっと早く、レジ袋や綿棒など基本的な必需品からの脱プラを高らかに宣言している。
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本命はバイオ・プラスチック?
ところで、大手企業が次々と使い捨てプラ廃止を宣言するからには、持続可能な代替品の目途が付いているからに違いない。
代替プラとして脚光を浴びているのは、バイオ・プラスチックと呼ばれる素材だ。業界団体European Bioplastics(欧州バイオ・プラスチックス、EUBP)によれば、バイオ・プラスチック市場はここ数年で20%以上成長すると見込まれ、多くの研究機関や企業が性能に優れ、コストの見合う製品や生産技術を生み出そうとしのぎを削っている。
バイオ・プラスチックといえば、植物原料由来と考えがちだが、植物由来であっても、水、二酸化炭素、ミネラルなどに完全に生分解しないものもある。一方、化石燃料由来であっても、生分解するものもあるから難解だ。その上、現在、世界に出回っている自称「生分解性プラスチック」の多くは、‘疑似生分解’(英語ではoxo-biodegradable、oxo-degradableなどと呼ばれる)するだけ。物理的に細分化されて見えなくなるが、生分解せず、自然環境に蓄積する。環境保護の観点からは、どのような環境下でどのくらいの期間を経て生分解するかがが重要なカギとなるので、一般消費者には判断できない。
そこで、考案されているのが、認証マークだ。TŪVやDINなどの認証機関が、塗料や接着剤なども含めたプラ製品全体をテストし、欧州標準化委員会(CEN)が定める基準に適合すれば証明書を発行。認証番号を併記してこのマークを表示することを認可する。たとえば、「苗マーク」は、生分解しコンポストできることを示すラベル。ベルギー、ドイツ、スイス、オランダ他、欧州の国々に広がりつつある。
大手スーパーの野菜・果物の量り売り袋でも、お肉や野菜の包装パッケージでも、こうした認証マークの付いたバイオ・プラスチックを用いたものがどんどん市場に出始めている。
お肉や野菜の包装パッケージも、持ち帰り用コーヒーカップにも、認証マーク付きのバイオ・プラスチックが登場し始めている。
「欧州視察」と銘打ってベルギーにやってきた、とある日本の小売店チェーンの視察団に、こうしたレジ袋廃止やバイオ・プラスチック製パッケージの話を投げかけてみたが、全く興味を示さなかった。「日本の消費者はキビシイから、幾重にも凝った丁寧な包装やアメニティで勝負するしかないのだ!」と。日本の小売業界やプラスチック業界、そして消費者が危機感を共有するのは、いつのことだろうか。
トップ画像:コンポスト可能な生分解性プラを示す「苗マーク」©European Bioplastics
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