子育てをしていると「子どもがいうことをきかない」「手伝いをしない」など悩みはつきない。その解決策のひとつがポイント制度かもしれない。ゲーム感覚で楽しみながらでき、自主性と論理的思考を養うと、最近ドイツで注目されている。理系の大学教授が絶賛しており、ポイントを集めれば好きなことができるという合理的なところが、ドイツ人に合っているのかもしれない。
ポイント制度のシステムは簡単。お手伝いや片付け、宿題をしたらポイントがもらえ、好きなことに使えるようにする。フルトバンゲン大学デジタルメディア学部のイルカ・デルオロフリーデル教授は「何をすればポイントがもらえるか、集めたポイントを何に使うか、子どもと一緒に決めること。子どもが自分が決めたと思うことが大事なので、親が押し付けてはならない」と話す。使い道は「家族旅行の行き先を決めるとかテレビを見るなど、自分の生活とかかわりのあるものがよい。お金やお菓子などはおすすめしない。一部はお金に換算してもいいが、必ずポイントというクッションをはさむこと」とこつを伝授する。
そもそも親は子どもに指示を出す前に、なぜそうするのかを説明する必要があるという。「部屋を片付けなさい!」と怒鳴るのではなく、「片付けないと他の遊びができないよ」「おもちゃがどこにあるのか、わからなくなるよ」と説明し、その上でやり遂げた場合にポイントを与える。きちんと説明すれば子どもは理解し、主体的になる。ポイント制度は自主性を養う手助けをするのである。
デルオロフリーデル教授は「遊びながら学ぼう」をモットーに、知育ゲームを開発するエンタートレイン・ソフトウエア社(EnterTrain Software)の代表でもある。同社は2009年、卓越したデジタル教育に贈られる「ドイツ教育メディア賞」を受賞している。教授は家庭で小中学生の子どもたちにポイント制を導入したところ、「以前はコンピュータゲームばかりしていたのに、ポイント集めに夢中になり、すすんで宿題や手伝いをするようになった」と効果を実感している。宿題や片付け、早寝早起きなど、やって当たり前のことにポイントをあげるのはどうかという意見もあるが、子どもに小さな報酬は必要だとのこと。「ありがとう、助かったよ」という感謝の言葉も報酬になるが、それだけでは続きしないという。
ライプニッツ・ハノーファー大学無機化学のフランツ・レンツ教授も「自然科学と同じように、物事には原因と結果がある。小さいころから、自分の行動が結果をもたらすと学べば、計画を立てたり、工夫したりすることにつながる」と、ポイント制度を支持する。講義の出欠や、合気道の指導で取り入れたところ、学生たちの当事者意識が高まったという。
ポイントを集めればコンピュータゲームができるし、集めなければできない。すべては自分次第。社会はシステムでありルールがあるから、自分の行動に見返りがあるという体験は将来、社会生活で役に立つ。教授たちは「親は気分によってポイントを与えたり与えなかったりという気まぐれや、使い道に口を出してはいけない。いつもフェアでいること。そうでないと子どもは、他人の機嫌を取ったり、約束を破ったりしていいのだと思うようになる」とポイント制度の前に、子どもに対する親の基本的な姿勢が重要だと強調する。
一方、ニュールンベルクでソーシャルワーカーを務めるマリナ・シィロル氏は「ポイント制度は、合う子と合わない子がある。ひとりひとりの興味に沿う必要があり、物事のしくみについて関心のない子には難しい」と、自らの体験を話す。
実生活でも買い物するとポイントをもらえたり、飛行機に乗ればマイレージがためられたりと、ポイント制度は私たちの日常に入り込んでいる。日本でもポイント制度で省エネを推進しようという取り組みがあるなど、うまく使えば社会全体の行動様式を変えることも可能だろう。その際、ポイントで得られる報酬が自分にとって価値があるか、集める行為自体が楽しいかが成否を分ける要因になりそうだ。どちらにしろ、一度試してみる価値はあるかもしれない。