「原子力緊急事態宣言発令中」-フクシマ原発事故から7年が経過した日本は未だこの状態にある。
年間被ばく線量のハードルを下げたまま、自主避難者への補助を打ち切り、帰還を推奨する。人々は、知りたくないことから目を背け、聞きたくないことには耳をふさいで、まるで事故は収束したかのように振舞い、復興やオリンピックを語る。本当のことを知り、最善の選択をしようと必死の人々は、「非県民・非国民」呼ばわりすらされかねない。
そんな風潮の中で、国内ばかりか、欧州でも奮闘し続けている人がいる。吉本興業所属のお笑い芸人『おしどりマコ・ケン』の二人だ。今も、東電記者会見に出席して質問し、度々フクイチの現場や被災地を訪れ、健康検査の問題点を掘り下げ、東電や国を相手取った民事・刑事訴訟を追い、放射性廃棄物の処分場問題を調べ…、あらゆる角度から原発を見つめている。
3.11まで、フツーのお笑い芸人だった彼らは、今もなおフクシマ事故関係の会見に出続ける、数少ないジャーナリストとなった。欧州の人々は、彼らが被害の全体像を理解するための貴重な情報源であることを知っている。彼らの広く深い情報量と大局的な洞察が、ここ欧州の人々を引き付ける。
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手弁当のジャーナリスト
大手の新聞やテレビしか見ない人々は「おしどりマコ&ケン」の存在を知らないかもしれない。昨年ようやく、二人の原発取材ぶりを真摯に扱ったドキュメンタリーが民放BS局で放映され、高い評価を得て合計4つもの賞を受けた。
それにしても、彼らほどの広く深い情報源は希なのに、その貴重な情報を伝えるのが、マコさん自身が編集委員を務める雑誌「Days Japan」や、各地で散発的に開かれる講演会などに限られているのは残念だ。
大手マスコミの社員記者と異なり、彼らには、誰かが給料や取材費を払ってくれるわけでもないし、ニュースを書けば買ってくれるメディアが決まっているわけでもない。原発事故当初は、東電などの記者会見場で、大手マスコミの記者たちに素人と馬鹿にされもしたが、彼らが人事異動の繰り返しですっかり入れ替わってしまった今となっては、マコさんが最古参だという。そもそも、今となっては東電の会見は出席者もまばら。ゴールデンウィーク明け、東電定例会見に出席したのは合計9名。うち、質問したのはマコさんを含めて3名というのが現状だ。そんな会見にもほぼ必ず手弁当・諸費用自己負担で出席し続けるお二人は、そのひたむきさには頭が下がる。
原発取材をするようになって、テレビからは干されてしまったという二人。せっかく売れ始めていた吉本の漫才師という立場をかなぐり捨てて、ここまで原発にこだわるようになったのは、「ごまかされるのは嫌だ。真実を知りたい」という気持ち、ただそれだけだったという。
甲状腺がん検査の落とし穴、そして『セシウムボール』
今年も多くの詳しい情報を持ち込んだマコさん・ケンさんだが、中でも驚愕させられる事実が2つあった。詳細は別の記事やメディアに譲るが、周知されるべく大問題だというのに、よほどの常識人でも知らないのが現状ではないか。
欧州講演で人々の注目を集めたのは、欧州の人々がチェルノブイリ以降、意識の高まった被ばくによる甲状腺がんなどの健康被害のことだ。そして、もう一つは、7年後の今年になってようやく報告され始めた『セシウムボール』の問題だ。
通常、放射能は目に見えないとされてきた。しかし、セシウムボールは、微小だが肉眼でもわずかに見える放射性物質の塊だ。2013年頃から研究者の間では報告されていたというが、今年初め頃、つくばを皮切りに、関東地方の広域でも相次いで発見された。事故当時、主に2号機から大気中に大量に飛散したものとみられ、水に溶けにくい性質から、環境中に留まり、一度体内に取り込まれれば、肺などに留まって長期に渡り、内部被ばくの基となってしまう。実際の健康被害については未知数で、世界の研究者が恐怖の目で、日本の経過を見つめているという。
一方、放射性ヨウ素による初期被ばくが引き起こすとされる甲状腺がんについては、チェルノブイリ事故により、欧州では周知されている。7年たった現在、フクシマでは200人近い子供たちが癌と確定診断されていることもある程度知られている。マコさんが驚いたのは、欧州では「日本政府は、甲状腺がん多発を原発事故の被害と認めず、スクリーニング効果だとしている」と理解している人が多いことだったという。マコさんによれば、日本では、2巡目、3巡目でも新たな患者が見つかる今、さすがに「スクリーニング効果」とするメディアはなくなり、「過治療」などと説明されるようになったという。
さらに、驚くべき事実を知らされた。実は、現在甲状腺がんと確定診断されている196人は、1巡目~3巡目までの検査時に癌と確定診断された人数の合計。ところが、各回の検査で「経過観察グループ」に振り分けられた中から、再検査で癌と確定診断された人数は合算されていないというのだ。「経過観察グループ」とは、癌が懸念されるグレーゾーンのため、2年後の検査を待たずに数か月後に再検査をすべき子供たちのグループだ。その人数は、千人単位で、その中からの癌発見率はかなり高いと想定せざるをえない。これまでに経過観察グループに振り分けられた中からの確定診断者数は2年後にしか報告されないのだという。
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講演の合間に、精力的に取材も
ところで、今年もマコさん・ケンさんは、欧州を精力的に講演し、自らの血肉とするための取材を重ねた。
ドイツでは、まず、国際会議「東アジアにおける国家主義」に招へいされ、「原発事故と国家主義」について講演。その後、ドイツ南西部、市民電力として堅実な経営を続けるシェーナウ電力会社に、創始者のスラーデック夫妻を訪ね、太陽光パネル、風車、バイオマス発電など、再生エネがしっかりと定着している様子を各地で視察した。
ブラウンシュバイク、デュッセルドルフ、フランクフルトでの一般向け講演の他、例年のように、多くの学校を訪ねて中高生を前に説明し、矢継ぎ早の質問にも丁寧に答えた。講演や学校訪問の合間には、放射性廃棄物処分場シャフトコンラッドや、大規模採炭場も視察と盛りだくさんだ。
初めて訪れたスイスでは、チューリッヒで「原発事故7年後の現状」について初講演。世界最古のベツナウ原発や最も若いライプシュタット原発も視察。同時に、どの家にも核シェルターがあり、その上で、安定ヨウ素剤も配られているスイス社会を体験した。
シャフトコンラッドという、ドイツの放射性廃棄物処分場に行きました。塩の鉱山跡地で、地下深い!シンプルなエレベーターにビビるケンパル。 pic.twitter.com/LJgotQd5E5
— おしどり♀マコリーヌ (@makomelo) 2018年4月19日
今度は、フランスで、使用済み核燃料の再処理工場や、高放射性廃棄物の最終処分場研究施設を訪ねてみたいと、すでに来年への構想が膨らむ。
真実を知りたいだけ、知らせたいだけ
日本のお笑いの世界にも、スポンサーと大衆に媚びない、気骨あるエンターテナーが出てきそうな予感を感じるこの頃。マコさん・ケンさんだけでなく、松元ヒロさんやウーマンラッシュアワーの村本大輔さんもいる。欧米のスタンドアップコメディアンの多くが政治や社会問題を取り扱うように、日本でも、マコさん・ケンさんらのような、プロの芸人たちが、話術や笑いを通して、新たな気づきや洞察をもたらせようと踏ん張っている。
報道の自由度ランキングで70位あたりを低迷する日本のマスコミに比べ、テレビという舞台を抜け出した、彼らには自由がある。スポンサーのご意向を気にする必要もなく、放送免許を維持するために「公平・中庸」を演じるしがらみもないから、独立した視点で、真実を探り、思い思いのやり方で伝えることができる。
そして、マコさんは願う。「知りえた情報をもとに、自分の頭で考え、自分の意見を持ってほしい」のだと。お二人にエールを送りたい。
トップ写真:大荷物を持ち、カメラやパソコンを抱えて、今年も欧州を駆け巡るお笑い芸人ジャーナリスト「おしどりマコ・ケン」のお二人 © Taz
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