ドイツで最後の原子力発電所3基が、4月15日送電網グリッドからきり離された。1986年のチェルノブイリ原発事故、そして2011年の福島第一原発事故によって、原発の危険性を確信したドイツは脱原発を決め、議論や紆余曲折を経ながらも段階的に進め、ついにこの日、全面的な脱原発にこぎつけたのだ。
ドイツは原発電力からの脱却を2022年末に予定していたが、同年2月に勃発したロシアのウクライナ侵攻により、やむなく、稼働延長を決定していた。暖房の主軸であるロシアからの天然ガス供給が急遽止まったため、万一の暖房用エネルギー不足に備えて「引き伸ばし」をしたわけだ。それでも新たに燃料棒を投入し続けるのではなく、すでに原子炉に入っている燃料棒をそのままできる限り長く発電させ、どうしても必要となれば発電増大できるアイドリング状態を続けてきたのだ。現に、今年1〜3月の原発による発電量は全電力消費の1.3%に過ぎなかった。
ドイツ政府は2030年までに1990年比で地球温暖化ガス排出65%減、2045年までに実質ゼロを目指し、2050年までに電力の8割を再生可能エネルギーでまかなうエネルギー政策を掲げている。そのため新規住宅の太陽光エネルギー利用の義務化や、国土の2%を風力発電に利用することをはじめ、ヒートポンプや水素電池など包括的な対策をどんどん推進している。
22年には、過渡期として液化天然ガス(LNG)をアメリカや中東などから大量に輸入することになったため、特別な港湾ターミナルの建設を通常の数倍という猛烈な早さで進めて完成させた。これらは、将来は、再生エネに完全転換する際には、グリーン水素ターミナルにする計画になっている。
原発はCO2を排出しないため気候危機対策になるという主張もあるが、トリッティン元環境大臣は4月15日付けのハノーファーアルゲマイネ新聞で「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告によると、原発は(放射線廃棄物の処分や廃炉まで考慮すれば)風力発電の10倍気候に害を与えている」と話した。
また高レベルの放射線廃棄物最終処分場の建設場所がまだ見つかっていないことについて「処分地がないのに原発を始めてしまったことは大きな誤りであり、無責任なことだった」と述べている。国民全体を取り込んで、2050年までに、最終処分地を決定することを目指しているが、2060年代に持ち越されそうだ。加えて、原発は十分な安全対策を施せば建設費が膨大になり、採算に合わなくなっているとも。
ドイツは電力をフランスなど他国から輸入しているが、それ以上に輸出しており、総合すると輸出国だ。ただ南北の送電網の調整が遅れているため、北部の洋上風力で発電した電力はポーランドなどの隣国に輸出され、南部の工業地帯の電力需要はフランスなどから輸入に頼らざるをえない構図になっている。
フランスは電力の7割を原発でまかなっているが、故障ばかりでなく、冬の間は川が凍って冷却水を調達できず稼働停止となったことも。「原発は安定したベースロード」というのは幻想でしかないとして、ドイツは「原発なしでも問題なくやっていける」ということを世界に向かって実証しようとしている。 そんな4月15日、一度決めたら首尾一貫、ぶれることなく脱原発を実行したドイツであっても、使用済み核燃料の処理や廃炉作業はこれから。「原発事故」「放射線被害」の不安から完全に解放されるには、まだまだ数百年、数万年という気の遠くなる年月がかかることを私たちは十分に認識しているのだろうか。新型だろうが、小型だろうが、新たな原発を作ることなどめまいがしてしまう。