昨今、テレビ番組やYouTubeによく登場している「ひろゆき」とは、ネット掲示板「2ちゃんねる」の創設者、西村博之氏だ。その「ひろゆき」の名前が、銃乱射事件が続くアメリカのメディアで取りざたされているのをご存知だろうか。
アメリカではここのところ改めて銃乱射事件が急増。700人もが銃乱射で命を落とした昨年の記録をも上回りそうな勢いだ。5月にはニューヨーク州バッファローで18歳の青年が黒人を標的に13人を殺害。テキサス州の小学校でも白人至上主義の陰謀論を狂信する17歳の少年が立てこもり、22人もが犠牲になった。
こうした銃乱射事件の度に指摘されるのは、アメリカにおける銃規制の緩さだが、実はヘイトや陰謀論を重複・拡散させるネット匿名掲示板がこうした犯行を誘発させているのではないかとして注目されている。バッファローでの事件で逮捕された青年が「4chanに影響を受けた」と供述しているためだ。
4chanは2003年に開設されたが、当初から児童ポルノ画像の掲示で物議を醸し、長引く経営難から2015年に買収したのはひろゆき氏だった。4チャンの開設者でひろゆき氏と10年来の知り合いらしいプール氏が「4chanの祖に売却した」と語っているように、そもそも4chanの着想を得たのはひろゆき氏からだとしている。
4chanはひろゆき氏がオーナー・管理者となってからも、性差別や人種差別的な投稿が多く、脅迫めいた投稿や個人情報の暴露もあると指摘されてきた。
バッファローでの事件で、犯人が頻繁にアクセスしていたことから、NY州司法長官は、4chanにも捜査を開始すると発表したのだ。4chanの管理者として、ひろゆき自身が訴追される可能性は低いにしろ、捜査の手は及ぶだろうと米メディアは伝えている。
米国ではプロバイダ免責規定により、ネットのプラットフォーム管理者は投稿された第三者の発言に対しては、今のところは原則として責任は問われない。とはいえあまりに多発するヘイトクライムの背景に、こうした匿名掲示板の影響は否めないとして、バイデン政権はこの免責規定の撤廃を主張しているという。
「ひろゆき」といえば、相手が人気芸能人だろうが世間的に権威ある立場の人物だろうが、独特の笑いを顔に浮かべながら、忖度なくひょうひょうと発言する物言いが人気で、「2ちゃんねる」や「4chan」との関係を知る人は、今の日本の視聴者の中では少ないのかもしれない。
いつもオンライン出演なのはなぜかフランスに住んでいるからだが、奥方がフランスを選んだにせよ、就学でも就労でもなさそうなのに、どうして長期滞在できるのだろうと勘繰りたくもなる。
インタビュー記事の中では「観光ビザを更新しながらフランスに住んでいるんですけど、このまま住み続けたら長期滞在資格が取れるんです。」(東洋経済オンライン2022年1月)と答えているが、そんなものなのだろうか。
そもそも、日本とフランスの間には、観光などの短期滞在ではビザ免除だから、ひろゆき氏のいうような所謂「観光ビザ」は存在しないはずだ。相当な経済的保障と身元保証を揃えれば、90日以上の長期滞在ビザもあるが、これを「観光ビザ」と称しているのだろうか。
かつてはラトビアで、まとまった金額の投資をすれば得られる滞在ビザを取得して居住していたらしいので、EU・シェンゲン圏内では横移動しやすいかったのかもしれない。
「このまま住み続けたら長期滞在資格が取れる」というけれど、居住5年以上は必要最低条件で、十分条件ではなさそうだ。2ちゃんねる時代から訴訟に負け続けた賠償金とその追徴金の累積数十億円を支払っていないとのネット情報もあり、億単位の収入申告漏れも取りざたされてきたとはいえ、今でも年収3000万円はあると自ら語るひろゆき氏だから経済的条件はバッチリなのだろう。ただ「その国の言語・法制度・社会システム・生活方法などの基本的知識を十分に身に着けていること」とか、その国の「公共政策や安全への脅威にならないこと」、なんて条件もあるらしい。
ひろゆき氏は、「(アメリカ社会の)構造の問題とサイトの方向性の問題をごっちゃにするのはよくない」(エキサイトブログ)、「自分は性や人種で人を差別しないけど、検閲をよしとするなら、もうとっくにやってるよ(CNNへの2016年のメール、ただし、原文の英文表現が不完全で文意はつかみにくい…)」などとして、コンテンツをうんぬんするつもりはないようだ。だが、ヘイトクライムについての管理者の責任追及や、Yahooがギブアップするほど厳しい個人情報保護法(GDPR)がある欧州で、米銃乱射事件に関連してNY州司法当局の調べをうけても大丈夫なのかと、老婆心ながらちょいと心配してしまう。