来年4・5月の大統領選挙に向かい、フランスもトランプ現象に怯えている。「『右派(共和党)の後は左派(社会党)』というマンネリ化した政権交代にはウンザリ。極右である国民戦線(FN)党首、マリーン・ル・ペン(以下マリーン)に一票入れて社会の大改革を!」と望む人が急激に増えそうだ。FNは、2011年から確実に力を伸ばしてきており、2015年の地方選挙では28.4%で一位の得票率だった政党だ。
トランプ次期大統領の当選は、フランスでも、波紋を巻き起こしている。
オランド大統領の人気が落ちるにつれ、来年春の大統領選挙では、極右翼政党である国民戦線(Front national 、以下FN)の党首、マリーンと共和党候補の一騎打ちが、今、どの予測でも確実とされている (i)。11月9日、マリーンは、トランプ次期大統領の当選を「政治とメディア界のエリートの敗北」と評し、フランスにも、同様な現象が起きるだろうと語った。
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アルジェリア戦争下での拷問を正当化したジャン=マリー・ル・ペン(以下ル・ペン父)氏
「来年は極右翼政権」がなきにしもあらずとなった今、FNがどのような状況で生まれた政党かについて、ここでもう一度、明確にしたい。
1954年、19世紀以来フランスの植民地であったアルジェリアの独立戦争が起きた。1961年、当時の大統領、ド・ゴール将軍がアルジェリアの独立計画を発表し、本土フランスで国民投票を行ったところ、国民の75%が独立に賛成した。ところが、一部の軍人とフランス人植民者たちはこれに不満を表明。秘密軍事組織を作り、ド・ゴール暗殺計画を立てたが失敗。1962年、アルジェリアは独立を果たした。
1972年、ル・ペン氏は、このアルジェリア独立に反対する秘密組織を基にして、国民戦線党(FN)を結成した。70年代は、黒い眼帯をつけて公の場に登場し、暴行や恐喝事件を起こし、ヘイトスピーチや歴史否認で何度も訴えられた、長い前科歴を持つ人物だ。1984年、テレビ番組「真実のとき」で、アルジェリア戦争中に拷問に参加したことを認め、「傷痕が残らない程度の尋問だった。当時の状況では必要だった」と、電気ショックや水責めといった拷問を正当化している。
イメージチェンジを図るル・ペン氏の娘、マリーン
娘であるマリーンは、2011年から党首となり、イメージチェンジをはかる。これまでのファシズム党というダーティーなイメージから脱出するために、「民主主義的な党」というイメージを全面に打ち出している。
若者票を狙うために、可愛い、ジャニース風の若者を重要なポストにつけ、人種差別的側面を隠蔽するために、イスラム教徒の移民出身のフランス人も入党させている。2015年、2年後の大統領選進出への準備の一環としてか、暴言を繰り返しては党のイメージを悪くする父、ジャン=マリーを,党から追放した。そして、来春大統領選挙のスローガン、「マリーン、大統領」のシンボルマークには、全体主義を彷彿とさせる従来の燃え上がる炎のシンボルの代わりに、清楚な青いバラを起用した
しかし、クリーンなイメージの裏で、「こんなはずではなかった」という社会の底辺にいる人々の嫉妬心や感情をうまく利用して勧誘をしている。たとえば、「難民には住居があたえられているのに、サンドラには家がない。息子とこの3ヶ月、車の中で寝ている。」と書いてポスターが使われている。
「移民ばかりが優遇されて、貧困などで苦しむ白人フランス人はむしろ蔑ろにされている」というロジックで、蔓延する不公平感に訴えようとしているのだ。移民を締め出せば、ことが解決するとでも暗示するやり方は、Brexitやトランプのやり方とそっくりではないだろうか?
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得票率25%が予想される極右翼政党FN
FNは、前回2012年の大統領選挙では第3位、ル・ペン父時代の2002年には第2位を占めており、「少数の不満分子が投票する政党でしょ?」などと侮ることのできない政党になっている。昨年3月の地方選挙の第1ラウンド(ii)では28.4%で1位を占め、来年の大統領選挙の第1ラウンドでも25%以上の得票率が予想されている。
Ifop(フランス世論調査院)の統計によると、FNに投票する人々の典型的プロフィールは若い低学歴の男性だ。18歳から35歳、工員の43%、高卒以下の30%の男性に支持されているという。この典型的プロフィールとは多少異なるが、FN支持者の知人についてレポートしたい。
私は夫がフランス西部地方出身なので、時々、ブルターニュにいく。家の掃除を手伝ってくれる同年代の女性Bは、長年、友人づきあいをしている。難民受け入れ問題でフランスがあたふたしていた去年の秋、彼女が言った。
「わかんないのよね。どうしてこの国では、難民に生活援助金1000ユーロもあげるのか?(iii) 私たちはフランス人なのに、毎月、苦労していているんだよ。500ユーロの生活援助費しかもらってない。まずは、国民を助けてほしいわよ」
私は、「でもね、シリアにはフランスも爆弾を落としているんだよ。だから、彼らがここに来るのはしかたないよ」という言葉を飲み込んだ。これは、Bにとっては勝者の理論でしかないだろうと思うからだ。
Bは、高校教師の家庭に生まれた中流階級出身だ。学校が嫌いだったので、高卒で結婚した。DV夫から逃れるために、子ども3人を連れて家出し、ひとりで育てたあげた。しかし、成人になったどの子も、今は、アルバイト暮らしか、生活保護を受けている。彼女自身も、日銭を稼げる仕事しかしてこなかったのでキャリアがなく、今は、掃除、老人介護、そして生活保護だけで暮らしている。
おしゃれな人なので、「自分で作った服を売りたい」という夢をもっているが、それも難しい。注文をとって、生地を買って縫製して売るとなると、ある程度の値段はつけたい。でも、ユニクロのような安いチェーンの洋服店がどこの町にもある今、服にお金を出す人は少ない。
家にあった本の整理を頼んだとき、「私、昔、ロシア語やったんだ。懐かしいから、この本貸してもらってもいい?」と言い、ドストエフスキーを持って帰った人だ。まったく、教育と縁がなかった人ではない。
それだけに、中流階級から下流階級に転げ落ちたという感覚は強いのだろう。そして、その転落感覚が、「当然なことのようにフランスで生活保護を受けている難民たちが許せない」という気持ちにつながるのかもしれない。
今度、Bと、このような話をする機会があったら、なんと言おう? 「あなたが、毎日、頑張っているのはわかる。でも、個人的な嫉妬心や不満からFNに投票して、移民を締め出しても、何の解決にもならないよ。もし、拷問を正当化するような人物が結成した党の党首マリーンが次期大統領になってしまったら、市民としてあなたにも責任があるよ」と言う勇気をもちたい。
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