人権無視の移民法案、メディアへの圧力――英国と日本の違い

人権無視の移民法案、政権に批判的なメディアへの圧力--実は、今、日本と英国で同じような問題が同時に起こっていることをご存知だろうか。日本では、英国でのことは、散発的にしか報道されないから知る人は少ないかもしれない。

スキャンダルや金融政策失敗で迷走する英国保守党政権。物価高による生活困窮などで政権与党保守党の支持率は低迷している。そんな中、庶民のうっぷんの矛先をスピンさせようとでもいうかのように、3月7日に政府が打ち出したのが、強硬な移民排除法案だ。密航業者が提供する危ないゴムボートで英仏海峡を渡って英国にやってくる人々が後を絶たないことに、英国庶民はいら立っている。このような非正規渡航者には、難民申請すら許さずに、強制的にルワンダに送るというものだ。これには欧州や世界中から、政権与党内からですら、人権違反と非難の声があがっている。

英仏海峡のフランス側で、渡英の順番を待つ難民たち By VOA- Nicolas Pinault – VOA News, Public Domain

この移民法を突き進めるスナク首相も、ブレイバーマン内相も、共に移民二世の勝ち組超エリートだ。女性差別問題で、男性中心社会に過剰適応して出世してきた稀少の女性エリートが、率先して「差別なんかない」と声高に叫ぶのと同様、グロテスクでタチが悪い。

共に移民二世のブレイバーマン内相(左)とスナク首相(右)By UK Government – , CC BY 2.0

この法案で、英国政府は6000キロも離れた中央アフリカのルワンダを「安全な国」とほめちぎって、英国版の「入管収容施設」を作り、英国に命からがらたどり着いた人々を無理やり飛行機に乗せて厄介払いしようというわけだ。国内外からの抗議などどこ吹く風、くだんの内相は意気揚々と、1億2000万ポンド(約200億円)もの投資をお土産にルワンダを訪ね、ルワンダ政府高官に歓待される様子をメディアにアピールしまくった。

中東やアフリカの紛争地や困窮地から、密航業者になけなしの資金を吸い取られながら、砂漠を歩き海を越えてやってくる人々の群れは、こんな対症療法で押しとどめられるわけもない。中には、庇護が必要な正真正銘の「難民」も少なからず含まれているというのに。

英国には幸いながら、こんな人権侵害移民法案を提案した現政権に批判的なメディアやジャーナリストは少なくない。 BBCスポーツで長寿人気サッカー番組を担当するゲリー・リネカー氏も、自身のツイッターでこの移民法案を残酷と批判。するとBBCは、公共放送として公平性に違反したとして、即刻、リネカー氏を降板させると発表。政府の圧力で次々と看板キャスターを降板させた日本のテレビ局を彷彿とさせた。

人気サッカー番組の看板キャスター、ゲリー・リネカー氏 By Liton Ali – originally posted to Flickr as Danielle Lineker and Gary Lineker, CC BY 2.0

ところが、違ったのは、リネカー氏への連帯を示す解説者やジャーナリストたちが、政府の圧力に屈するべきではないと声を挙げ、番組ボイコットなどで抵抗したのだ。リネカー氏はBBCの正社員でもなく、生粋のジャーナリストでもないにも関わらず、だ。トランプ大統領になじられたCNNのジャーナリストに、ジャーナリストが連帯して立ち向かったことを思い出させた。

この日、人気サッカー番組「Match of the Day」はぶっとんだ。何も知らずにその日のサッカー中継を楽しみにしていた我が家も唖然とした。

結局、BBC経営陣は謝罪して、リネカー氏の続投が決まった。

日本でも、驚くほど人権無視の入管法が政権与党から提出されようとしている。

政府の圧力に屈せず、オカシイことはオカシイと声をあげる気骨あるジャーナリズムが健在だろうか。政権与党が唱える「報道の公平性」に忖度するばかりでは、政府の暴走を留める力にはなりそうにない…。